掲載:2017年1月16日

第121回鳥島オキノタユウ調査報告

鳥島集団の繁殖つがい数は837組に、 北西斜面の新コロニーは全体の1/3に成長

 2016年11月16日から12月10日まで、第121回鳥島オキノタユウ(アホウドリ)調査を行ないました(鳥島滞在は11月18日から12月3日まで)。表1にその結果の概要を示します。

表1.鳥島のオキノタユウ集団 : 2016年11-12月期のセンサス結果
つがい数とカウント数(平均と標準偏差、最大・最小)を示す。
調査日数は、北西斜面で11日、燕崎斜面とその崖上、鳥島全体では6日。
  従来コロニー 新コロニー 鳥島全体
燕崎斜面 燕崎崖上 北西斜面
繁殖つがい数(組)
536
27
274
837
前年比
+17
+11
+57
+85
増加率
+3.3%
+68.8%
+26.3%
+11.3%
カウント数
(羽)
平均
802.0
53.7
478.0
1334.2
前年比
+24.0
+13.1
+68.9
+105.2
増加率
+3.1%
+32.3%
+16.8%
+8.5%
標準偏差
33.6
7.5
22.8
59.1
最大
844
62
511
1396
最小
753
43
437
1233

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繁殖つがい数とカウント数

 鳥島全体の繁殖つがい数は少なくとも837組で(「 繁殖つがい数センサスと個体数カウントの方法 」を参照)、昨シーズンから85組(11.3%)も増加しました。とくに、デコイと音声装置を利用して形成した北西斜面の新コロニー(写真1)では、昨シーズンより57組(26.3%)も増えて、274組のつがいが産卵しました。驚くべきことに、確立からわずか12年間で、新コロニーは全体の約1/3(32.7%)を占めるまでに成長しました。

▼写真1 北西斜面の新コロニー(2016年12月1日)
平らな場所にあり、枯れ草や土を用いて、丈夫な巣が形成されている。

▼写真2 燕崎斜面の従来コロニー(2016年11月19日)
中央排水路を挟んで、西地区(右上)、東地区(下)。東地区は従来区域(左)と上側区域(右)とに分けられる。2016年5月に、泥流が排水路を通って海岸に達し、そのあと排水路に溢れた泥流が東地区の縁に沿って流れた。

▼写真3 従来コロニー西地区(2016年11月30日)

▼写真4 従来コロニー東地区の中央部(2016年11月30日)

▼写真5 燕崎崖上の新コロニー(2016年12月1日)
この一帯は平坦で、ハチジョウススキが疎らに生育している。主にその草むらの中で営巣している。

 燕崎斜面の従来コロニー(写真2)では、昨シーズンから17組(3.3%)増加して、536組のつがいが産卵しました。そのうち、西地区(写真3)では376組で、16組(4.4%)の増加、東地区(写真4)では160組で、1組(0.6%)の増加でした。北西斜面の新コロニーと同じ年に燕崎崖上の平坦地に自然に形成された新コロニー(写真5)では、昨年より11組(68.8%)も多い27組が産卵しました。
 各コロニーでカウントした個体数の平均は、従来コロニーで802.0羽(昨年比24.0羽、3.1%の増加)、北西斜面の新コロニーでは478.0羽(68.9羽、16.8%の増加)、燕崎崖上の新コロニーでは53.7羽(13.1羽、32.3%の増加)でした。そして鳥島全体では、カウント数の平均が1334.2羽で(105.2羽、8.5%の増加)、カウント数の最大は1396羽(71羽、5.4%の増加)でした。
 このように、繁殖つがい数、カウント数とも、すべての区域で増加しました。

繁殖状況の評価と今後の予測

 鳥島全体での繁殖つがい数は、昨年予測した815-820組(第119回調査報告を参照)上回る837組でした。繁殖年齢に達した成鳥のうち、ある年に実際に繁殖する個体の割合は約8割と見積もられ、残りは再婚中だったり、何らかの理由で繁殖を休止したりしています。そうした非繁殖の成鳥を含めると、今シーズン、鳥島集団の潜在的つがい数は、ついに1000組に達したと推測されます。
 もし繁殖成功率が最近5年間の平均水準(67.6%)であれば、来春には約565羽のひなが巣立つと予想され、繁殖期直後の鳥島集団の総個体数は推定で約4650羽になるでしょう(成鳥の推定個体数2051羽、繁殖年齢前の若鳥の推定個体数2034羽、予想される幼鳥の個体数565羽)。
 2004年に確立してから急成長を続けている北西斜面の新コロニーでは、昨年の予測(約260組)より多い274組のつがいが産卵しました。ここでは、カウント数がひきつづいて増加しています( 表1 )。来シーズンのつがい数は、今シーズンと同じくらい増えて、約330組になるでしょう。 2004年に確立してから急成長を続けている北西斜面の新コロニーでは、昨年の予測(約260組)より多い274組のつがいが産卵しました。ここでは、カウント数がひきつづいて増加しています( 表1 )。来シーズンのつがい数は、今シーズンと同じくらい増えて、約330組になるでしょう。 従来コロニーの大半を占める西地区で、2010-11年繁殖期から2012-13年期にかけて繁殖つがい数が300組あまりで足踏みしました(それぞれ303、306、303組)。これにもとづいて、ぼくは従来コロニーが飽和状態に近づいていると判断し、従来コロニーの収容能力をおよそ500組と推測しました。しかし2013年7月に西地区の泥流跡に砂防・植栽工事(第111回調査報告を参照)を実施して地面を安定させた結果、西地区のつがい数が増え始め(2013-14年期319組、2014-15年期336組)、続いて2015年6-7月に西地区中央部で土砂のずり落ちを防止する保全管理工事(第118回調査報告を参照)を行なった結果、西地区のつがい数はさらに増えて、昨シーズンは360組、今シーズンは376組になりました。また、東地区の繁殖つがい数は2014-15年期に152組、昨シーズンに159組、今シーズンは160組で、微増に留まりました。

 結局、今シーズンの従来コロニーのつがい数は、昨年の予測(約550組)よりやや少ない536組でした。従来コロニーでは、カウント数が少しずつ増えているので、それに応じて繁殖つがい数も少しずつ増え、来シーズンには約550組になるでしょう(約3%の増加を仮定して)。
 燕崎崖上コロニーのつがい数は、昨年の予想(約20組)よりかなり多い27 組で、昨シーズンより11組、69%も増加しました。ここでは昨シーズンに引き続いてカウント数が増加しており( 表1 )、来シーズンもつがい数がかなり増加して、約35組になる可能性があります。しかし、この区域のつがい数はこれまで植生の状況によって大きく左右されました。昨・今シーズンはハチジョウススキの生育が良好だったので、安定した営巣場所が数多く提供されたといえます。もし現在の植生状態が来シーズンまで存続すればつがい数は増加しますが、台風や低気圧の通過にともなう強風や砂嵐によってススキの草むらが失われれば、何組かのつがいは営巣場所を失い、つがい数は減少するでしょう。こうした状況を判断すれば、この地区の来シーズンのつがい数はごく大まかに見積もって25-30組程度となるでしょう。

 これまでの4年間に、鳥島全体の繁殖つがい数は、1年当たり71、72、71、85組と著しく増加しました(4年間で299組、約56%)。これは7年前の巣立ちひな数が多かったためです(繁殖成功率はそれぞれ67.7%、70.7%、73.2%、73.3%で、巣立ちひな数は231、270、306、327羽)。それらの個体が順調に成長して、つぎつぎに繁殖集団に加入した結果だと考えられます。来シーズンの7 年前、つまり2010-11年期には繁殖成功率が64.4%に下がりましたが、その後は68%程度に維持されたので、つがい数は引き続き増加するはずで、来シーズンには905組(燕崎従来コロニーで約550組、北西斜面コロニーで約330組、燕崎崖上コロニーで約25組)になると予想されます。そして、600羽あまりのひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は約5000羽になるに違いありません。さらに、その次のシーズン(2018年11月)には、つがい数が1000組に近づくでしょう。ぼくの夢の実現はもうすぐです!

泥流の発生の中央排水路への土砂の堆積

 第120回調査(2016年3-5月)以降、燕崎斜面でやや大規模な泥流が発生して中央排水路を通って海岸まで流れ下り、その後に再び発生した泥流によって多量の土砂が中央排水路の下部と東地区の西縁部に堆積しました(写真6)。2015年12月初めに小規模な泥流が発生したときに懸念したことが現実になりました(第119回調査報告を参照)。

▼写真6 海岸まで流れ下った泥流の跡と再度の泥流で堆積した土砂(2016年11月19日)

▼写真7 頂上部の第6堰堤(2016年11月25日)。
この堰堤(2015年4月に補修)の上流側一帯に土砂が堆積していないので、土砂はこれより下流へは流れなかったと考えられる。

▼写真8 燕崎崖上の第9堰堤(2016年11月25日)。
この堰堤(2015年4月に補修。第117回調査報告の写真6を参照)の左右の急斜面から、大雨で形成された溝に沿って土砂が流れ水路に出て、その一部が崖下の斜面に流れ落ちた。この土砂流出を防止するのは容易ではない。

▼写真9 中央排水路の下部から左側下方には、堆積した土砂が盛り上がっている(2016年11月30日)

 環境省は「国指定鳥島鳥獣保護区保全対策事業」の一環として、2016年9月に中央排水路の最下部に堆積していた土砂を除去して、排水路の機能を回復する砂防工事を行ないました。それが奏功して、最初の泥流を排水路経由で一気に海岸まで導くことができました。しかし、再度の泥流によって排水路の下部に土砂が堆積して流路がふさがれ、泥流は左に方向を変え、東地区の西縁に沿って流れ下りました。幸い、東地区に泥流が侵入することはなく、最悪の事態には至りませんでした。
 鳥島の頂上部の水路に設置された土留めの堰堤(6基)と2015年4月に補修した燕崎崖上の堰堤(1基)はすべて機能していて(写真78)、頂上部から大量の土砂が燕崎の斜面に流れ落ちたという跡は見られませんでした。一方、燕崎斜面の最上部では崖に沿って深い溝が形成され、そこに堆積していた土砂が流れ出たことがわかりました。斜面の最上部に残留している土砂の量は少ないので、つぎの泥流がもし起こったとしても、従来コロニーが受けると想定される被害は比較的小さいでしょう。
 ただ、東地区の西縁に堆積した土砂は、突風によって吹き飛ばされ、東地区中央部に営巣しているつがいに当たって、繁殖成功率に影響を及ぼすに違いありません。その結果、東地区中央部の営巣好適度が低下し、この区域で営巣するつがいの数が減少すると予想されます。これらの土砂を除去することは困難ですが、さらに土砂が堆積することを防ぐためには、盛り上がるように堆積した中央排水路の下部の土砂(写真9)を除去し、さらに掘削して、排水機能を回復することが必要です。


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