掲載:2015年7月22日

第118回鳥島オキノタユウ調査報告

燕崎斜面で従来コロニー保全工事を実施

 2015年6月13日から7月11日まで、第118回鳥島調査を行ない(鳥島滞在は6月22日から7月4日まで)、環境省・東京都が1993年から2004年にわたって実施した従来コロニー保全管理工事の補完作業にあたりました。

コロニー保全工事の背景

 2013年7月中旬に、従来コロニー西地区で泥流(2010年2月に発生)の跡にステンレス亀甲金網籠を設置して、土砂の移動を止め、その下側にチガヤの株を植栽する工事を行ないました(第111回調査報告を参照)。その結果、工事区域内で、2013年11月には2組、2014年11月には8組のつがいが営巣しました。

 残念ながら、その後、移植したチガヤは枯れてしまいました。おそらく、風食によって表土が失われ、根が浅くなってしまい、チガヤが乾燥に耐えられなくなったためだろうと推測されます(泥流跡は周辺よりも盛り上がっている)。それだけでなく、営巣中のつがいによって、茎や葉が巣材として利用されたことも考えられます。この消失したチガヤを再移植して、強風や突風による飛砂から抱卵中の親鳥やひなを守れば、この区域で営巣するつがいの数を増加させ、それらの繁殖成功率を引き上げることができます。

 また、従来コロニー西地区の中央部から下部では、密集して営巣している多数の鳥たちの活動(巣造りや排泄、歩行による土砂のずり落ち)や大雨によって発生する小泥流が、植生を衰退させました(第116回調査報告第116回調査報告:写真3)。ここに適度の植生を回復して好適な営巣環境を造成すれば、繁殖成功率を約70%に引き上げ、維持することができます。このことは、これまで30年間余りの野外調査で証明されました(第117回調査報告を参照)。

保全工事の実施

 

 今回、次の4つの工事を行ないました。第一は、西地区の中央部から下部に適度の植生を回復するため、ステンレス亀甲金網と土嚢を用いて土留めを作成して、それらを植生が後退した区域に設置し、その下側にチガヤの株を植栽すること。同時に、以前に(1990年代末から2000年代初頭)設置したステンレス金網籠の下側にチガヤを補植しました。第二は、西地区の土砂が下方に移動することを防止するため、2013年7月に西地区の下辺にトリカルネットと土嚢を用いて設置した土留め(7 m)を延長すること。第三は、泥流跡に植生を回復するため、2013年7月に設置したステンレス金網籠の下側にチガヤを再移植すること。第四は、西地区上部の中央排水路側の斜面の広い範囲にチガヤの株を移植し、将来的に植被を形成することでした。

1)ステンレス亀甲金網籠の設置工事

 西地区中央部の10箇所に、ステンレス亀甲金網を用いて小型の蛇籠を作成し、設置しました(長さ3m、土嚢を7袋並べる)(写真1、手前)。その後、この下側にチガヤを一列に植栽しました(写真2)。同様に、以前に設置されたステンレス金網籠(13箇所)の下側にもチガヤを一列に補植しました(写真1、奥)。

▼写真1 ステンレス亀甲金網を敷き、その上に紫外線耐久性のある土嚢を並べる。

▼写真2 土嚢を金網で包んで土留めを造り、その下側にチガヤを移植。

2)トリカルネット土留めの延長工事

 西地区の下辺には、鳥たちの歩行によって上方から移動してきた土砂が10-15cmの厚さで堆積していました(1990年代後半に設置した土留めの蛇籠の上に堆積)。2013年7月に設置した土留め(7 m)の延長上に、3 mと5 mのトリカルネット土留めを設置しました(写真34)。これによって、土砂が下方にずり落ちるのを抑え、西地区の地面の傾斜を緩やかに保つことができます。

▼写真3 トリカルネットを敷き、厚手の土嚢を3段に積んで、土留めを造った。

▼写真4 これで、下辺の土留めの長さは15 mになった。

3)泥流跡へのチガヤの植栽工事

 枯れてしまったチガヤを回復するため、株を一列に移植しました(写真5)。これらが生育すれば、強風によって砂が吹き飛ばされるのを防ぐことができます。また、地面が安定して好適な営巣場所が形成されるので、この区域で約10組のつがいが営巣するようになるでしょう。

▼写真5 金網籠の下側にチガヤを移植。

4)西地区上部の裸地へのチガヤの植栽工事

 スコップで掘り起こしたチガヤの株を、約2 mの間隔で、点状に植栽しました(写真5、奥)。これらの株が根づいて生育すれば、この一帯が植生で覆われ、突風による飛砂が減少します。

 7月初めに、台風9、10、11号が南の海上に相次いで発生したため、それらによるうねりが鳥島に届く前に島を離れなければならず、中央排水路に堆積した土砂の排除は、残念ながら実施できませんでした。このためには、さらに1週間の滞在が必要でした。

まとめ

 今年はエルニーニョ現象が発生し、太平洋高気圧の勢力が弱く、梅雨前線の北上が遅かったため、6月下旬になってもまだ、梅雨前線が伊豆諸島南部に停滞しました。そのため、ぼくが鳥島に滞在していた期間に前線が南下したり北上したりし、よく雨が降り、強風が吹きました。

 この風雨は、砂防・植栽工事を行なう人間にとっては厳しいのですが(風雨が強い日に、トリカルネットやステンレス亀甲金網、土嚢など、重くてかさばる荷物を背負って燕崎の崖を降りることは危険)、植栽したチガヤにとっては恵みをもたらし、根づきを大いに促進したはずです。

 西地区での繁殖成功率は、泥流が流入する前の3年間(2007-2009年)は70.7-73.1%(この期間に、ここから小笠原諸島聟島に運ばれた10-15羽のひなを含めず)でしたが、最近3年間(2012-2014年)は65.8-70.0%に少し低下しました。今後、植栽したチガヤが期待通りに生育すれば、西地区での繁殖成功率は70-75%程度に維持されるでしょう。

 西地区では、現在、330-340組のつがいが営巣しているので、もし繁殖成功率が5%程度引き上げられれば、巣立つひなの数は15-20羽ほど増えることになります。そして、鳥島全体での繁殖成功率が約70%に維持されるはずです。そうすれば、2018年5月に約600羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は5,000羽に到達するにちがいありません。



調査報告一覧