掲載:2013年7月26日

第111回鳥島オキノタユウ調査報告

燕崎斜面の従来コロニーで保全工事を実施

 2013年7月9日から16日まで鳥島に滞在し、燕崎斜面でオキノタユウ(=アホウドリ)の営巣地を保全する工事を行ないました。その作業について報告と説明をします。

泥流の発生と砂防工事

 燕崎斜面では、2009年の秋と翌年の2月に泥流が発生し、とくに2010年2月中旬には堆積した土砂でほぼ埋まっていた中央排水路から泥流が溢れ出て、従来コロニー西地区の一部に流れ込みました(第102回103回調査報告を参照)。その結果、10羽ほどのひなが生き埋めになり、死亡しました。

 この直後に、鳥島に滞在していた山階鳥類研究所の人たちは泥流の侵入を防止するための応急工事を行ない、2010年6-7月には環境省・山階鳥類研究所が中央排水路を掘削して、導水溝を形成しました(第105回調査報告参照)。つづいて、2011年6月にも、環境省・山階鳥類研究所は燕崎斜面の東側の断崖の基部に沿って雨水を排水するため、新導水溝形成工事を行ないました。

 2012年の春先に、発達した低気圧が鳥島に接近・通過して大量の雨を降らせたため、燕崎斜面で大規模な泥流が発生しました。しかし幸運なことに、その勢いが強かったため、泥流は中央排水路に沿って海岸までまっすぐに流れ下り、中央排水路は泥流によってえぐられ、溝は以前より深くなりました(第108回調査、写真2 [燕崎斜面を流れ下った泥流(2012年4月28日)]を参照)。その結果、今後しばらくの間、従来コロニーに泥流が流れ込む恐れはなくなりました。

泥流が流れ込んだ区域の保全の必要性

 2010年と2011年の6月に環境省・山階鳥類研究所によって砂防工事は行なわれたものの、従来コロニー西地区内の泥流が流れ込んだ区域に対して保全工事は実施されませんでした。そして、泥流跡の区域は急傾斜の裸地となり、地面は不安定なままでした。そのため、オキノタユウはその区域に営巣することがむずかしく、やや平坦な部分に営巣したとしても大半のつがいは繁殖に失敗しました(表1)。

表1 従来コロニー西地区内での繁殖成功率の比較(2011-12年繁殖期)
区域 繁殖つがい数 巣立ちひな数 繁殖成功率(%)
泥流跡
27
9
33%
非泥流部
268
196
73%
最下部草地
8
7
88%
合計
303
217
70%

 もし、泥流跡の区域を保全して、泥流が流れなかった区域と同じ繁殖成功率に引き上げることができれば(296組が203羽のひなを巣立たせ、繁殖成功率は73.5%)、泥流跡から約20羽(27組の73.5%)のひなが巣立つはずです。つまり、繁殖つがい数が現在のままでも、簡単な保全工事によって、ひなの数を今より10羽ほど増やすことができるのです。毎年10羽ほどであっても、それが数年間にわたれば数十羽になり、オキノタユウの個体数の回復にかなり貢献します。せっかく生まれた卵から少しでも多くのひなが巣立つようにするため、保全工事をなるべく早く行なう必要がありました。

保全工事の実施

 今回、おもに次の2つの工事を行ないました。その第一は、西地区の下辺にプラスチック製のトリカルネットと土嚢を用いた土留めを設置で、第二は泥流跡にステンレス金網と土嚢を用いた土留めの設置です。それぞれの土留めの下側にはオキノタユウが着陸する時に衝突しないように、緩衝剤となるチガヤの株を移植しました。
 次に、工事前と工事後の写真を示します(写真12)。工事前の写真で、やや盛り上がった、緑色で覆われていない区域が「泥流跡」に当たります。

▼写真1 工事前の従来コロニー西地区。手前の溝が掘削した中央排水路。

写真1

▼写真2 工事後の西地区。写真の右下から低木に向かって流れた泥流の跡に保全工事をした。

写真2

1)トリカルネット土留めの設置

 以前には、亜鉛メッキをした鉄線の円筒蛇籠と土嚢を用いて西地区の下辺に土留めを設置しました(1990年代後半)。しかし、塩分によって鉄線が錆びて蛇籠が破れてしまうので、後にプラスチック製のトリカルネットを用いた蛇籠に変更しました(第102回調査報告を参照)。
 今回の手順を写真で示します。砂が移動して地面が不安定になった西地区の下辺に(写真3)、土留め設置場所を浅く掘って平らにし、まずトリカルネット(長さ7 m)を敷きました(写真4)。そのあと、土嚢を5段積み上げ(合計90袋)、約50 cmの高さにして、それらを敷いてあったトリカルネットで包み、ステンレスの針金で結び合わせました(写真5)。その土留めの上側には土砂を寄せ、下側にはチガヤの株を移植しました(写真6)。これによって、上側からの土砂の流れを抑え、地面の傾斜を緩やかにすることができます。また、着陸時に鳥たちの土留めへの衝突を防ぎます。

▼写真3
砂が移動して地面が不安定になった西地区の下辺

写真3

▼写真4
土留め設置場所を浅く掘って平らにし、まずトリカルネットを敷いた。

写真4

▼写真5
土嚢を積み上げ、敷いてあったトリカルネットで包み、ステンレスの針金で結び合わせた。

写真5

▼写真6
土留めの上側には土砂を寄せ、下側にはチガヤの株を移植した。

写真6

2)ステンレス金網籠の設置

 塩分によって錆びにくいステンレスの金網を用いて小型の蛇籠を作り、泥流跡に設置して土砂の移動を防止し、平坦な営巣場所を造成しました。
 同じように、写真で手順を示します。まず、泥流跡の急傾斜な部分に等高線に沿って地面を浅く掘り、ステンレス金網(長さ3.0-3.5 m)を敷き(写真7)、そこに土嚢を一列に並べました(写真8)。そのあと、土嚢を網で包んで針金で結び合わせてから、トリカルネット土留めと同様に、上側に土を寄せて平らにし、下側にチガヤの株を移植しました。3-4 m 間隔で合計7本のステンレス金網籠を設置しました(写真9)。この土留めの上側はやや平らになり、好適な営巣場所となります。

▼写真7
泥流跡の急傾斜な部分に等高線に沿って地面を浅く掘り、ステンレス金網を敷き

写真7

▼写真8
土嚢を一列に並べた。

写真8

▼写真9
土嚢を網で包んで針金で結び合わせてから、トリカルネット土留めと同様に、上側に土を寄せて平らにし、
下側にチガヤの株を移植。3-4 m 間隔で合計7本のステンレス金網籠を設置した。

写真9

まとめ

 これらの他に、西地区中央部で、以前に設置したステンレス金網籠の下側にチガヤを補植し、東地区上側区域の周辺部にもチガヤを移植しました。
 過去30年余りの経験から、営巣地の保全管理に手をかければかけるほど繁殖成功率が改善される、ということが明らかになりました。今後も、鳥たちに影響を及ばさないようにしながら、営巣地の細やかな保全作業を継続しようと考えています。

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