掲載:2107年1月16日

繁殖つがい数センサスと個体数カウントの方法[解説]

 今シーズンの調査では、鳥島に半月間滞在して、少なくとも837組のつがいが産卵したことを確認しました。
繁殖つがい数を確定するためにぼくが用いている方法について説明します。また、個体数をカウントする方法をも解説します。

 >> 個体数カウントの方法

繁殖つがい数センサス法

1.コロニー写真の撮影

  抱卵期の半ばにあたる11月下旬に、各コロニーを俯瞰することができる地点から、デジタルカメラで撮影する。このとき、各コロニーを複数に分割して撮影する(実際には2016年11月19日に、北西斜面の新コロニーで4枚、燕崎崖上の新コロニーで4枚、燕崎斜面の従来コロニーでは東地区を3枚、西地区を2枚に分けて、合計13枚の写真を撮影した)。

 

2.コロニー地図の作成

 撮影した写真をモバイル・プリンターで印刷し、写真をトレースしながら各個体の位置(○印で記入)や植生の分布を書き込み、コロニーの地図を作る。

3.年齢クラスの記入

 それぞれのコロニー地図に、写真にもとづいて各個体の年齢クラスをつぎのように4つに分類して、記号で記録する。すなわち、A:全身が白色の成鳥、A':後頭部にのみ黒褐色の羽毛が残る大部分が白い成鳥、S:胸部から腹部にかけて体の下面一帯が白く、頭部から背にかけて上面が黒褐色で、白黒半々に見える若い鳥、Y:体の下面や上面に黒褐色の羽毛が多いごく若い鳥。

4.コロニーに接近して隠れている巣の発見

 草の陰になったり、木の下にあったりして、観察地点から見えない巣がある。それらを発見するため、コロニーの周辺部に近づき、巣を確認した場合にはその位置を地図に書き加える。

5.卵の確認と産卵判定の基準

  1. 写真を撮影した場所から、双眼鏡(8×)とフィールドスコープ(20×)を用いて各個体を観察し、巣があるかどうかを判断し、それぞれのコロニー地図に書き込む(巣を確認できた場合には○印の下縁を赤く塗り、巣がない場合には○印に青色の斜線を引く)。
  2. 巣に座っていた個体が立ち上がったとき、卵を確認した場合には、○印全体を赤い色で塗り、そのそばに確認日を記入する。卵がない場合には○印に青色の斜線を引く。とくに、にわか雨が降った直後には、座っていた個体の多くが立ち上がって羽ばたき、背中と折り畳んだ翼の間に入り込んだ水を振り払うので、卵の有無を確認しやすい。
  3. 3−4日間隔でそれぞれのコロニーを観察し、巣にいる個体の年齢クラスが変わった場合には、元の記号に並べて記入する。この場合には抱卵を交代した可能性が高いので、○印の下半分を赤く塗る。また、巣の中で立ち上がったにもかかわらず、体の一部や植生の陰に隠れて卵が確認されない場合、その直後に下を向いて卵を抱え込むような姿勢と行動をとったときには、抱卵している可能性が高いので、同様に○印の下半分を赤く塗る。
  4. それぞれのコロニーを4-5回観察して、各巣で同じ年齢クラスの個体が10日間あまり続けて観察された場合には(抱卵を交代した可能性もあるが)、卵を抱いていると判断し、○印の全体を赤く塗る(今回の調査では、11月19日にコロニーを撮影し、20日にコロニー地図を作り、21日から12月1日まで、北西斜面の新コロニーを4回、燕崎崖上の新コロニーを6回、燕崎斜面の従来コロニーを4回、観察した)。
    従来コロニー西地区上部の画像(上)とそれをトレースして作ったコロニー地図(下)。
    地図には観察記録が記入されている。

  5. 巣内に抱卵されていない卵(放棄卵)や割れた卵(卵殻)が見つかった場合、また巣外に転がり出ている卵が発見された場合(とくに燕崎斜面の従来コロニーでよく見つかり、平坦な場所にある北西斜面の新コロニーや燕崎崖上の新コロニーでは、めったに見つからない)、それらをつがいによる産卵だと見なす。ただし、コロニーの最上部や周縁部に離れて存在する卵が見つかった場合には、それが巣から転がり出たものとは考えられないので、つがいの産卵ではないと判断した。このような卵は若い雌がたまたま産んだ無精卵である可能性が高いと推測し、つがい数には含めない。
      また、ごくまれに1つ巣の中に2個の卵が見つかる場合があるが(オキノタユウ類は一腹1卵で、補充産卵をしない)、それは1組のつがいによると見なす(雌・雌つがいの可能性がある)。
  6. 巣のそばに2羽の若い個体が寄り添って観察される場合がある。それらは産卵直前のつがいである可能性が高いので、調査の最終日までとくに注意深く継続して観察する。巣にいる個体が2羽から1羽になり、その個体が巣にうずくまるような姿勢で座り、巣に接近する個体に対して座ったまま威嚇行動をとった場合には、直接卵を確認できなくても、卵を抱いていると判断した。

6.繁殖つがい数の確定

 観察最終日に、それぞれのコロニーの卵(赤い○印)を数えて集計し、繁殖つがい数を確定する。

7.評価

 こうして得られた繁殖つがい数は、その繁殖期に産卵した実際のつがい数の過小評価になる。なぜなら、産卵は10月下旬に始まり12月初めまで続くので、産卵開始から卵の調査開始までの約1ヶ月間に巣から転がり出て割れてしまい、消失してしまった卵があるはずで(とくに急斜面にある従来コロニーで)、集計された数にはそれらが含まれていないからである。
  このような卵がそのコロニーで生まれた卵のうちに占める割合は未調査なので、現在のところ、実際のつがい数を推定することができない。これを明らかにするためには、10月半ばから鳥島に滞在して、各巣で産卵と抱卵を追跡して観察しなければならない。
  このように、得られた繁殖つがい数は実際の値ではなく、次善の近似値である。しかし、毎シーズン、同じ方法で調査しているので、それらの値は比較可能である。