掲載:2016年1月7日

第119回鳥島オキノタユウ調査報告

鳥島集団の繁殖つがい数は、昨シーズンから71組増えて、752組に!
 そのうち、北西斜面の新コロニーでは217組が産卵

 2015年11月16日から12月14日まで、第119回鳥島オキノタユウ(アホウドリ)調査を行ないました(鳥島滞在は11月25日から12月7日まで)。表1にその結果の概要を示します。

 

表1.鳥島におけるオキノタユウ集団の2015年11-12月期センサス結果。
つがい数とカウント数(平均と標準偏差、最大・最小)を示す。
  従来コロニー 新コロニー 鳥島全体
燕崎斜面 燕崎崖上 北西斜面
繁殖つがい数(組)
519
16
217
752
前年比
+31
+6
+34
+71
増加率
+6.4%
+60.0%
+18.6%
+10.4%
カウント数
(羽)
平均
778.0
40.6
409.1
1229.0
前年比
+54.7
+9.6
+90.4
+147.4
増加率
+7.6%
+31.0%
+28.4%
+13.6%
標準偏差
57.6
8.2
26.3
92.7
最大
842
48
435
1325
最小
710
28
354
1092

繁殖つがい数とカウント数

 鳥島全体で繁殖つがい数は752組で、昨シーズンから71組(+10.4%)も増加しました。とくに、デコイと音声装置を利用して形成した北西斜面の新コロニー(写真1)では、昨シーズンより34組(+18.6%)多い、217組のつがいが産卵しました。驚くべきことに、確立(2004年)からわずか11年間で、新コロニーは全体の約29%を占めるまでに急成長しました。

 島の南東端に位置する燕崎斜面の従来コロニー(写真2)では、昨シーズンから31組(+6.4%)増加して、519組のつがいが産卵しました。そのうち、西地区(写真3)では360組で、24組(+7.1%)の増加、東地区では159組で、7組(+4.6%)の増加でした。東地区のうち、従来区域では103組で、1組(-1.0%)の減少でしたが、2005年の産卵期に数組のつがいが移住して形成された新区域(第91回調査を参照)では56組で、8組(+4.3%)増加しました。北西斜面の新コロニー確立と同じ年に、燕崎崖上の平坦地に自然に形成された新コロニー(写真4)では、昨年より6組多い、16組が産卵しました。このように、従来コロニー(2地区)、新コロニー(2地区)ともに繁殖つがい数が増加しました。

 各コロニーでカウントした個体数の平均は、従来コロニーで778.0羽(昨年比54.7羽、7.6%の増加)、北西斜面の新コロニーでは409.1羽(+90.4羽、+28.4%)燕崎崖上の新コロニーでは40.6羽(+9.6羽、+31.0%)でした。つがい数と同様に、すべてのコロニーでカウント数が増加しました。そして、鳥島全体でのカウントの平均は、昨年より147.4羽(+13.6%)多い1,229.0羽でした。また、カウントの最大は1,325羽で、昨年より177羽(+15.4%)も増加しました。

繁殖状況の評価と今後の予測

 鳥島全体での繁殖つがい数は752組で、昨年の予測(約740組:第116回調査参照)を少し上回りました。繁殖成功率が昨シーズンと同水準(約70%)であれば、2016年5月に約525羽のひなが巣立つと期待され、繁殖期直後の鳥島集団の総個体数は約4,275羽になるでしょう(成鳥の推定個体数1,842羽+繁殖年齢前の若鳥1,909羽+巣立った幼鳥525羽)。

 急成長を続けている北西斜面の新コロニーでは、カウント数が最近もひきつづいて増加していることから(とくに今シーズンは、昨年より平均で約90羽、約28%の増加)、来シーズンのつがい数は最近2年間と同程度(35、34組)かそれ以上(35-40組)多い、255-260組になるはずです。また、今シーズン、北西斜面の新コロニーと従来コロニーのカウント数の比はおよそ1:2であり、もし年齢構成が同じならつがい数もその比になるはずです(実際には、急成長中の新コロニーでは若鳥の割合が高い)。来シーズンの北西斜面コロニーのつがい数は、少なくとも今シーズンの従来コロニーのつがい数の半分程度と見積もると、519組の半分で約260組となります。おそらく、来シーズンには北西斜面で約260組のつがいが産卵すると期待されます。

 一方、従来コロニーの大半を占める西地区では、2010-2012年に繁殖つがい数が300組あまり(303、306、303組)で足踏みしたことから、ぼくは従来コロニーが飽和状態に近づいていて、従来コロニーの収容限界を約500組と推測しました(第107109回調査報告を参照)。しかし、2013年7月に西地区で2010年2月に発生した泥流の跡に砂防・植栽工事(第111回調査報告を参照)を実施して地面を安定させた結果、つがい数が増え始め(319、336組)、さらに2015年6-7月にも西地区でコロニーの保全管理工事(砂防・植栽工事、第118回調査報告を参照)を行なって営巣環境を整えた今シーズンには、西地区のつがい数は360組になりました。このうち、2013年7月に保全工事をし、2015年7月にチガヤを再度移植した泥流跡では、実際に15組が産卵しました。

 従来コロニーの環境収容力は、砂防・植栽工事による営巣地の改善によって、引き上げられたといえます。そして、従来コロニーのつがい数は、東地区の159組と合わせて519組になり、500組を超えました。従来コロニーの繁殖つがい数は今後も少しずつ増えて行くと考えられ、来シーズンには550組程度になるでしょう。

 燕崎崖上コロニーでもカウント数がかなり増えたので(約10羽、31%)、来シーズンのつがい数は今シーズンから少し増えて約20組になる可能性があります。しかし、この区域の営巣つがい数はこれまで植生の状況によって大きく左右されました。今シーズンはハチジョウススキの生育が良好だったので、安定した営巣場所が数多く提供されたといえます。もし、現在の植生状態が来シーズンまで存続すればつがい数は増加しますが、台風や低気圧の通過にともなう強風によって植生が後退すれば、営巣場所を失ったつがいは繁殖できなくなり、つがい数は減少するでしょう。

 鳥島全体の繁殖つがい数は、この3年間で71、72、71組(合計214羽、約40%)と著しく増加しました。この主な要因は、昨シーズンの報告で推測したように、7年前の巣立ち個体数が多かったことでしょう(繁殖成功率がそれぞれ67.7%、70.7%、73.2%とかなり高く、巣立ちひな数は231、270、306羽だった)。それらが成長して、今シーズン、繁殖集団に加入したのです(成鳥や繁殖前の若鳥の生き残り率は、毎年大きく変動しないと仮定して)。もし、この推測が正しいとすれば、7年前の繁殖成功率が73.3%と過去最高で、巣立ちひなの数が327羽だったので、来シーズンもこれまでと同程度の増加(約70組)が見込まれ、繁殖つがい数はおよそ820組と予想されます。また、繁殖集団の単純モデル(集団生物学的資料もとづく)による予測では約815組になります。したがって、来シーズンのつがい数は815-820組と予想されます。

 さらに、その次のシーズン(2017年産卵期)には繁殖つがい数は約860-870組になり(従来コロニー西地区への泥流の影響で、7年前の繁殖成功率は64.4%と低かった)、約600羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は5,000羽に到達すると予測されます。その後は繁殖成功率が69%程度に維持され、巣立ちひな数が順調に増加したので(353、379羽)、2年後の2019年産卵には、約1,000組のつがいが産卵すると期待されます。

突風によって、巣から転がり出たり、割れたりした卵

 調査中、2015年12月3日に本州南岸を低気圧が急速に発達しながら通過し(3日994 hPa、4日978 hPa)、鳥島では南西の強風(風力6-7)が吹き荒れ、時々、激しい突風が発生しました。翌日に北西斜面にある新コロニーを観察したときには特別な変化は認められませんでしたが、2日後の12月5日に南東端に位置する従来コロニーを調査したとき、巣から転落した6個の卵と巣の中で細かく割れていた4個の卵を確認しました。これらの10個の卵は、おそらく抱卵中の親鳥が突風をまともに受けて巣から離されたときに転落したり、強い風圧を受けた親鳥によって押しつぶされたりしたのだろうと推測されました。(写真56

 オキノタユウの抱卵は2か月余りと長く、今回の観察から推測されるように、卵の死亡事故が繁殖の成否を大きく左右すると考えられます。したがって、強風を和らげ、砂まじりの突風を防止し、鳥たちが丈夫な巣を造れるように営巣環境を整備・改善すれば、こうした卵の事故死が減り、繁殖成功率が引き上げられるはずです。

中央排水路への泥流の流入

 従来コロニー保全管理工事を行なった2015 年7月以降、燕崎斜面の最上部で小規模な泥流が発生して中央排水路に流れ込み、かなりの量の土砂が堆積しました(写真7)。もし、再び同規模の泥流が起こった場合には、泥流が東地区の西縁に沿って流れ下る可能性があり、場合によっては東地区の下部に流入する恐れがあります。

 しかし、燕崎斜面の崖上の水路に設置した土留めの堰堤(6基)はすべて十分に機能していて、頂上部から土砂が燕崎斜面に流れ落ちた形跡は見られませんでした。したがって、今回の泥流は燕崎斜面の最上部にすでに堆積していた土砂が流れ出ただけで、土砂が頂上部から供給されたものではないことがわかりました。燕崎斜面の最上部に堆積している土砂の残留量は少なくなっているので、つぎの泥流がもし起こったとしても、営巣コロニーが受ける被害は限定的になるはずです。もちろん、中央排水路に堆積した土砂を除去し、排水路の機能を回復すれば、従来コロニーの“安全性”はいっそう高まります。



▼写真1 北西斜面の新コロニー(2015年12月6日)
平らな場所にあり、周囲から枯れ草や土をくちばしで集めて、丈夫な巣が形成されている。また、黒褐色の羽毛をもつ若い個体の割合が高い。

▼写真2 燕崎斜面の従来コロニー(草地の部分、2015年12月2日)
中央排水路を挟んで、右側が西地区、左側が東地区。東地区は従来区域(海岸側)と、2005年産卵期から営巣が始まった新区域(斜面の上側)とに分けられる。2015年7月以降に、泥流が中央排水路に流れ込み、かなりの量の土砂が堆積した。

▼写真3 従来コロニー西地区(2015年12月6日)
急斜面にあり、砂のずり落ちを防止するために設置されたステンレス金網籠とその下縁に植栽されたチガヤの間に営巣している。北西斜面の新コロニーと比較して全体に白い羽毛をもつ成鳥が多い。

▼写真4 燕崎崖上の新コロニー(2015年11月26日)
この一帯は平坦で、ハチジョウススキやラセイタソウなどの植物がごく疎らに生育している。それらの小さな草むらの中に、オキノタユウが営巣している。

▼写真5 従来コロニーの崖上にある地面に強風によって形成された風紋(2015年12月5日)
風の通り道の地面に、このような風紋が広範囲に形成されていた。火山砂を吹き飛ばす強風が吹いたことを示す。

▼写真6 強風が吹いた後、西地区下部の巣から転がり出た卵(左手前と中央の奥、2015年12月6日)

▼写真7 中央排水路に新たに堆積した土砂(2015年11月26日)

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