掲載:2015年2月10日

第116回鳥島オキノタユウ調査報告

鳥島集団の繁殖つがい数は681組に、昨年から72組も増加!
 そのうち、北西斜面の新コロニーでは183組が産卵

 2014年11月20日から12月12日まで、第116回鳥島オキノタユウ(アホウドリ)調査を行ないました。表1は、調査結果の概要です。

表1.鳥島におけるオキノタユウ集団の2014年11-12月期のセンサス結果。
つがい数とカウント数(平均と標準偏差、最大・最小)を示す。
  従来コロニー 新コロニー 鳥島全体
燕崎斜面 燕崎崖上 北西斜面
繁殖つがい数(組)
488
10
183
681
前年比
+38
-1
+35
+72
増加率
+8.4%
-9.1%
+23.6%
+11.8%
カウント数
(羽)
平均
723.3
31.0
318.7
1081.6
前年比
+36.9
+5.7
+51.3
+101.9
増加率
+5.4%
+22.5%
+19.2%
+10.4%
標準偏差
34.8
3.7
18.9
38.2
最大
771
35
347
1148
最小
675
25
290
1042

繁殖つがい数とカウント数

 鳥島全体で繁殖つがい数は681組で、昨シーズンから72組(+11.8%)も増加しました。とくに、デコイと音声装置を利用して形成した北西斜面の新コロニー(写真1)では183組が産卵し、昨シーズンより35組(+23.6%)も増加し、新コロニーは全体の約27%を占めるまでになりました。

 燕崎斜面の従来コロニー(写真2)では繁殖つがい数が488組で、昨シーズンから38組(+8.4%)の増加で、そのうち、西地区(写真3)では336組、17組(+5.3%)の増加、東地区では152組、21組(+24.7%)の増加でした。東地区のうち、従来区域では104組、19組(+22.4%)の増加で、2005年産卵期に数組のつがいが移住・定着して形成された新区域(第91回調査を参照)では48組、2組(+4.3%)の増加でした。

 北西斜面の新コロニー確立と同じ2004年産卵期に、燕崎崖上の平坦地に自然に形成された新コロニー(写真4)では、つがい数は昨年より1組減って10組でした。ちょうど産卵期後半に当たる2014年11月6日に、台風20号(975 hPa、最大風速30 m/s)が鳥島付近を通過しました。植生が貧弱なこの区域に営巣するつがいは強風の影響を受けやすく、おそらく砂嵐や飛砂によって親鳥の繁殖行動が影響されたのでしょう。

 それぞれの区域でカウントした個体数の平均値は、燕崎斜面で723.3羽(昨年比+36.9羽、+5.4%)、燕崎崖上で31.0羽(+5.7羽、+22.5%)、北西斜面では318.7羽(+51.3羽、+19.2%)でした。鳥島全体では1081.6羽で、昨年より101.9羽の増加(+10.4%)でした。また、鳥島全体でのカウント最小値は1042羽で、今年は毎日1000羽以上の個体が観察されました。

繁殖状況の評価と今後の予測

  鳥島全体での繁殖つがい数は681組で、約650組という予測(第114回調査報告)、をかなり上回りました。繁殖成功率が最近5年間の平均水準(68.5%)であれば、2015年5月に465-470羽のひなが巣立つと期待され、繁殖期後の鳥島集団の総個体数は約3,890羽になるでしょう。

 昨シーズンと今シーズンの2年間で143組も繁殖つがい数が増加したのは驚きでした(26.6%の増加)。これは、7年前の繁殖成功率がそれぞれ67.7%、70.7%とやや高く、たくさんのひなが巣立ったこと(200羽を超えて、231羽、270羽)、3年前のカウント数の増加がそれぞれ94羽、89羽で、繁殖地に数多くの若鳥が帰還したことと関係しているにちがいありません。

 もし、この推測が正しいとすれば、2008-09年繁殖期と2009-10年期の繁殖成功率は、それぞれ73.2%、73.3%とかなり高く、巣立ったひなの数は300羽を超えて、それぞれ306羽、327羽となり、3年前のカウント数の増加が100羽、45羽(しかしその次の年に121羽)だったことから、今後の2年間も繁殖つがい数が急増するにちがいありません。そして、単純なモデルにもとづいて計算すると、2015-16年繁殖期のつがい数は約740組(+59組)、2016-17年期には約800組(+60組)になると予測されます。

 そして、2017-18年期には繁殖つがい数は約855組になり、繁殖成功率が今後も現状(68.5%程度)が維持されれば、鳥島集団の総個体数は2018年5月に、ぼくが目標として掲げてきた「5,000羽」に到達すると予測されます。

中央排水路への泥流の流入

  調査中、2014年12月1日に強雨があり、2日には小雨が舞い、まだ土の水分含量が高かった4日に激しい雨が降りました。その結果、燕崎斜面の上部で泥流が発生し、中央排水路に流入して、そこに土砂が堆積しました(写真45)。

 もし、つぎに大きな泥流が発生すると、西地区下部や東地区の従来区域に流れ込むおそれがあります。それを防止するため、2015年4月に、1)排水路の下部に堆積土砂を除去して排水路の機能を維持し、2)島の頂上部に設置された泥流防止堰堤をトリカルネットで補修し、流入する土砂の量を抑制する予定です。

また、従来コロニーにおける繁殖成功率を65-70%に維持するために、2015年6月下旬に、鳥たちの頻繁な活動(巣造りや排泄)によって植生が衰退した従来コロニー西地区の中央部(写真3)とその周辺一帯(2010年2月の泥流跡)にチガヤを植栽して、鳥たちにとって好適な営巣環境を造成する計画です。

▼写真1 夕陽を受けている北西斜面の新コロニー(2014年11月24日)
周囲から枯れ草や土をくちばしで集めて、丈夫な巣が形成されている。また、黒褐色の羽毛をもつ若い個体の割合が高い。

▼写真2 燕崎斜面の従来コロニー(2014年11月23日):
中央の排水路を挟んで、右上側が西地区、手前側が東地区。東地区は従来区域(左、海岸側)と、2005年産卵期から営巣が始まった新区域(右、斜面の上側)とに分けられる。

▼写真3 従来コロニー西地区の中央部(2014年12月5日):
鳥たちの頻繁な活動と雨による土の流れによって、植生が衰退した。

▼写真4 燕崎崖上の新コロニー(2014年11月23日):
この一帯は平坦で、ハチジョウススキやイソギク、ラセイタソウなどの植物がごく疎らに生育している。それらの小さな草むらの中に、オキノタユウが営巣している。

▼写真5 泥流流入前の中央排水路(2014年11月27日)

▼写真6 中央排水路に流入した泥流(2014年12月5日)



調査報告一覧