掲載:2010年3月25日
2009年11月22日から12月12日に、第103回鳥島アホウドリ調査を行ないました。その結果を報告します。
産卵年 | 従来コロニー(燕崎斜面) | 新コロニー | 合計 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
西地区 | 東地区 | 小計 | 燕崎崖上 | 北西斜面 | ||
2003 | 159 |
117 |
276 |
0 |
1 |
277 |
2004 | 174 |
122 |
296 |
2 |
4 |
302 |
2005 | 213 |
93 |
306 |
4 |
15 |
325 |
2006 | 230 |
84 |
314 |
3 |
24 |
341 |
2007 | 255 |
88 |
343 |
4 |
35 |
382 |
2008 | 268 |
94 |
362 |
6 |
50 |
418 |
2009 | 291 |
91 |
382 |
7 |
57 |
446 |
増減 (2008〜2009) |
+23 |
-3 |
+20 |
+1 |
+7 |
+28 |
今期、鳥島全体で少なくとも446組のつがいが産卵し、昨年より6.7%増加しました。大部分の地区で繁殖つがい数は順調に増加しましたが、従来コロニーの東地区ではわずかに減少しました。
この地区では、2004-05年繁殖期に低気圧の通過にともなって発生した砂嵐が、繁殖成功率(生まれた卵のうち巣立ったひなの割合)を著しく低下させました(前年の72.6%から27.8%に。この繁殖期に燕崎斜面一帯で営巣していたクロアシアホウドリのひな数もおそらく突風や砂嵐の影響で22%も減少した)。その結果、多くのつがいや定着しかけていた若鳥がそこを去り、西地区や北西斜面の新コロニーに移動し、また、それらの一部は東地区の上側に移動して営巣し始めました。
今期、その上側の区域では、昨年より5組増えて15組のつがいが産卵しましたが、東地区の従来区域では8組減って、76組だけでした。この従来区域の西側の縁に沿って、2009年の夏から秋に泥流が流れ下り(写真を参照)、営巣地の一部が破壊されました。そのために繁殖つがい数が減少したと推測されます。
残念ながら、燕崎斜面の中央排水路に多量の土砂が流れ込み、泥流の一部は従来コロニー東地区の西縁に沿って流れ下りました(写真を参照)。
その結果、東地区上部西側の営巣区域の一部が破壊されました。また、中央排水路の下部には小丘状の堆積が形成され、従来コロニーに西地区に泥流が流れ込む寸前になっていました。
2009年6月に燕崎崖上の頂上部で燕崎斜面への土砂の流入を防止するため、砂防工事を行ないましたが(第102回調査参照)、このとき雨と強風が続いたため、斜面に降りて中央排水路に堆積していた土砂を排除することができませんでした。
その後、秋に4つの台風が鳥島に接近しました。
台風 | 日付 | 中心気圧 | 進行方向 |
---|---|---|---|
11号 |
8月30日 |
980hPa |
東を通過して北西へ |
12号 |
9月8日 |
980hPa |
西を通過して北東へ(ごく接近) |
14号 |
9月19日 |
965hPa |
東を通過して北東へ |
20号 |
10月26日 |
980hPa |
西を通過して北東へ(かなり接近) |
調査した11月下旬には、6月に補強した堰堤は機能を維持していたので、崖上の頂上部から多量の土砂が斜面に流れ下った可能性はないでしょう。おそらく、4つの台風による大雨が燕崎斜面の最上部に堆積していた土砂を押し流し、泥流となって中央排水路に堆積したと考えられます(写真参照)。
中央排水路はすでに「満杯」の状態なので、もし次の大雨が引き金となって泥流が発生すれば、西地区営巣地に流れ込むにちがいありません。早急に砂防工事を実施しなければなりません。
▼写真
1 燕崎斜面の従来コロニー。斜面上部からの泥流によって、中央排水路に多量の土砂が堆積し、泥流の先端は東地区の西縁の下部に達した
(左:西地区、手前:東地区上側、右:東地区従来区域)(2009年11月26日)
▼写真2 従来コロニー西地区(2009年12月2日)
▼写真3 従来コロニー東地区。手前を泥流が流れ下った。(2009年12月2日)
▼写真4、5 燕崎斜面上部には崖の基部に沿って、深さ1〜1.5m、幅2〜3mの溝ができていた。
この部分の土砂が泥流となって流れ、中央排水路に堆積した。
(2009年12月1日)
▼写真6、7、8 少なくとも6回にわたって土砂が流れ、中央排水路に堆積した。
泥流の先端部に小丘状の堆積が形成され、途中はえぐれて浅い溝ができていた。
(2009年12月1日)
おそれていたことが起こりました。2010年2月中旬に、寒冷前線にともなう大雨によって燕崎斜面で泥流が発生し、その先端が西地区に流れ込み、およそ8羽のひなが土砂に生き埋められて死亡したと推定されました(山階鳥類研究所チームによる観察)。この事態を受けて、環境省は中央排水路に堆積した土砂を取り除く緊急工事を6〜7月に実施する予定です。
昨年中に、中央排水路に堆積した土砂を除去しておけば、今回の犠牲を防ぐことができたはずです。時間さえあれば簡単なことだったのに、その余裕がなくて(この直後にぼくは野外実習を担当しなければならなかった)、それを実行できなかったことを、ぼくは砂に埋まって命を落としたひなたちにおわびします。