本州中南部から四国・九州・沖縄および中国に分布し、湿地や崖上などに生える多年草です。他の野生のランに比べ、栽培も容易で一般家庭でも庭植えにして楽しむことができます。
草丈は40cm-70cm程で、茎は下部が細くなっており、葉鞘に包まれています。赤紫色の花茎が立ち上がり、その先に紫色の蕾数個をつけ、下から順に咲かせます。
名の由来は美しい紫の花色からと思われますが、白花種のシランもあります。小ぶりな花ですが群生する様は見事です。
花期は4月-5月です。
冬には地上部が枯れ、地下で春を待ちます。
シランの根は扁圧した球形の偽鱗茎(*1)が一年に一つずつ数珠繋ぎに増えていきます。
この偽鱗茎を秋に掘り起こし、蒸す、または湯通しした後に外皮を剥いで天日に干したものを生薬として用います。
生薬名をビャクキュウ(*2)といい、止血、排膿、消炎などに用いられます。
粘液質のブレティラグルコマンナン、およびでんぷんを含み、胃潰瘍や肺結核の喀血、吐血、鼻血の他、外傷の切り傷、火傷、あかぎれなどに利用されます。
*1:偽鱗茎:横に這う地下茎が養分を溜め込み、塊(=塊茎)となるもの。
鱗茎(短縮した茎に養分を溜め込み、貯蔵した部分。チューリップの球根など)とよく似ているため、「“偽”鱗茎」と呼ばれます。
*2:ビャクキュウ:白及
参考:『改訂原色牧野和漢薬草大図鑑』(北隆館)
『原色日本薬用植物図鑑』(保育社)
紫蘭咲いていささか紅き石の隅
目に見えて涼し夏さりけり
北原白秋
君知るや 薬草園に 紫蘭あり
高浜虚子
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