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薬草園の世界
東邦大学名誉教授
小池 一男

 2002年度公開講座も最終回となり、和食薬膳試食会がホテルサンガーデンららぽーとにて開催されました(参加任意)。

▲和食薬膳特別試食会へ向かう参加者を乗せたバス

■講師プロフィール

二階堂 保(にかいどうたもつ)

薬学博士、東邦大学薬学部生薬学教室教授

1936年東邦大学薬学部卒業後、大正製薬研究部・合成研究室勤務

1967年東邦大学薬学部助手、講師、助教授を経て、

1995年より現職。

▼以下、講座テキスト内容より、一部抜粋でご紹介いたします。

 中国では春は酸、夏は苦、秋は辛、冬は鹹、これに甘を加えた五味を重視した治療を行う「食医」が第一ランクの医師とされていました。
 未病を治す医師、すなわち旬の物を上手に調理する板前ということになります。
 普段食べている食物で病気の予防や健康維持を考える「食医」にみなさんもなってみませんか。
  「自分の身体と、生まれた土地とは一体である」という身土不二(シンドフジ)の考えから日本の食事を見直してみようと思います

『薬膳』とは...

 1880年代に中国で誕生した言葉で、『食療』とも言われていました。 「生薬」を料理に入れて煎じ薬よりおいしく服用させる目的がありました。
  季節に対応した食材(旬の食材)、体質や症状(各人の証)にあわせた生薬や食品を選んで作られる料理と言えます。

 この考えに身土不二を併せて、私達は古くから伝えられた『和食』を見直すことが必要だと思います。

"Slow Food "運動  

 スピードに束縛され、習慣を狂わされ、ファースト・フードを食べることを強制されるファースト・ライフというウィルスに感染した現代人に聡明さを取り戻させ、滅亡の危機へと追いやるスピードから自分を解放する、イタリアの片田舎から始まり、世界中に広がりつつある運動です。  

 消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、質の良い食品やワインを守り、また質の良い素材を提供する小生産者を守り、さらに子供たちを含め、消費者に「味の教育」を進めることを指針に掲げています。

 現代社会に逆行する面もある"Slow Food "運動は広い気持ちを持って、将来を見据えながら、慎重に取り入れてゆくべきものと思います。

●医師の階級(中国の周王朝の官制)
ランク
医 師
治 療 法
No 1
食医 五味
No 2
疾医(内科医) 五味、五穀、五薬
No 3
傷医(外科医) 五毒、五気、五薬、五味
No 4
獣医 五味を使わず

『身土不二』     
"育ったところの物(和食)を食べるのが良い"
身体=生まれた土地=不二

『薬(医)食同源』
"食べ物は薬と同じように身体に作用する"
食事も薬も源は同じ

神農本草経

上薬
命を養う。長期の連用可能。人参、大棗、枸杞子、百合、胡麻、胡桃、豆、山薬
中薬
性を養う。病を防ぎ、体力を補う。
下薬
病を治す。有毒の物が多く長期服用不可。

日本の食用植物(伝統的食材)

「春の七草」

セリ、ナズナ、ハハコグサ、ハコベ、コオニタビラコ、カブ、ダイコン すべて食用で、農耕雑草と言われる植物。七草粥に使われる。

セリ
Oenanthe javanica (Umbelliferae セリ科) water dropwort 芹、水芹、根白草
 アジア原産の多年草。水湿地に生え、冬も枯れず、早春に緑葉を出す。春に摘むものが最も上質で、汁の実、酢の物、浸し物、天ぷらなどに使う。香りが良く七草粥にも入れる。根も甘く味を付けて煮物や油炒めにして食用とする。
 地上部がそっくりのドクゼリは、竹の地下茎に似た節のある根で、その節から芽が出る。小葉の切れ込みが深いので区別が可能である。
  全草を水芹(スイキン)と呼び、その精油成分が去痰、緩下、利尿、食欲増進などを示し、神経痛やリウマチに用いたり、小児に解熱剤として用いる。
ナズナ、ペンペングサ
Capsella bursa-pastoris (Cruciferae アブラナ科) 薺、撫菜
 秋に芽を出し、羽状に切れ込んだ根生葉を地面に広げる。春から薹立ちして白色の十字花を咲かせる。果実は逆三角形で三味線のバチ型をしているところからペンペン草と呼ばれる。
  早春に摘んで茹でて、細かく刻み七草粥に入れる。和え物、油炒め、御飯に炊き込むと香りがよい。根はゴボウに形も香りも似ており煮付けにする。
ハハコグサ、オギョウ、ゴギョウ、モチグサ
Gnaphalium multiceps (Compositae キク科) 母子草
 東南アジア原産。秋に発芽し、春早く生長を始め、晩春に薹立ちして黄白色の小さい花を密生する。
 若葉を摘んで茹で、餅に混ぜてつき、3月3日の草餅として昔から使われた。また若葉は茹でて刻み、七草粥に入れるほか浸し物や和え物にする。 黄色い花を顔に見立てて、柿の葉のような照りのある葉を着せて人形を作る童遊びに使われたことから御形(オギョウ、ゴギョウ)=御人形と呼ばれる。
ハコベ、ハコベラ、アサシラゲ
Stellaria media (Caryophyllaceaeナデシコ科)  繁縷
 秋に発芽し、早春から淡緑色の葉を茂らせ、春に白い小花を付ける。若い茎葉を摘んで茹で、浸し物、和え物、汁の実とし、刻んで七草粥に入れる。
栄養的にも優れ、催乳作用もある。
 ナマの茎葉をみじん切りし、半量の塩とすり鉢で10分ほどする。紙に薄く延ばし、天日乾燥する。緑の塩としてふりかけ、天ぷらに用いたり、歯槽膿漏予防のために歯茎のマッサージに用いたりする。
コオニタビラコ、タビラコ、ホトケノザ(古)
Lapsana apogonoides (Compositaeキク科) 田平子
 日本原産の越年草で春に小さい黄色の頭状花を付ける。茎葉を傷つけると白い乳液が出る。
  早春に若葉を摘んで茹でて、水に浸して苦味を抜いてから、和え物、浸し物にする。田に茎や葉が平たく貼り付いたようになることから田平子と呼ぶ。シソ科のホトケノザとは別種である。
カブ、スズナ、カブラ
Brassica rapa (Cruciferae アブラナ科) turnip 蕪菁
 ヨーロッパ原産で日本にはダイコンより早く中国を経て伝来した。春に黄色の十字花を咲かせ、根は球形に肥大し、その大きさ、形、色は品種により異なる。 日本でも約80種の品種が知られている。
  煮物、汁の実、塩漬、糠味噌漬、酢漬などとして食べる。根と葉の栄養成分は異なり、根はVc を多く含み消化酵素アミラーゼを含んでいるので腹痛に効き整腸作用がある。葉は緑黄色野菜でカロチン、 Vc, Fe, Ca, K, 食物繊維などがあるので解毒作用、ガン予防効果が期待される。
ダイコン、スズシロ、カガミグサ、オオネ
Raphanus sativus var. raphanistroides(Cruciferae アブラナ科)  radish  大根、莱服
 地中海地方原産で、花は初夏に咲き、白又は淡紫色。果実は5cmほどのさや状。根が肥大し色、形の違う多数の品種がある。
 根を味噌煮、ふろふき大根、なます、刺身のつま、沢庵漬け、糀漬、千枚漬、切り干し、大根下ろしなどとして食用にする。
 根には多量の消化酵素ジアスターゼを含み、でんぷん質の消化を助ける。胃が冷えやすい胃下垂や胃拡張の人は生で食べるのは避け、逆に口内炎の人は生食した方がよい。

道端植物

野生植物と接することができるのは、今日では道端(森の小径)では...
その中で古くから食用としている植物を紹介します。

イタドリ
Polygonum cuspidatum (Polygonaceae タデ科) 虎杖
 日本原産で世界各地に広がっている。山野の土手などに群生する多年草で茎は中空で、その模様が虎に似ていることから虎杖と呼ばれる。夏に白い小花を付ける。
 早春に出た、紅紫色の美しい若い芽を取り食用とする。茹でて酢の物、浸し物にする。酸味があり和食に良く合う。
 蓚酸が多く含まれているので必ず良く茹でてから食用とし、多量に食べるのは避けた方がよい。
ドクダミ
Houttuynia cordata (Saururaceae ドクダミ科) 十薬、重薬
 濃い紅紫色の縁取りのある心臓型の葉は独特で、又その臭いは特異的である。この臭いは日本では嫌われるが、イギリスなどでは園芸植物として立派な地位を占めている。
 薬草としての方が有名で、ナマの葉を炙って腫れ物に貼ったり、乾燥した葉をドクダミ茶として利尿、解毒剤として用いられる。
 若い葉を天ぷらにしたり、根を蒸して食用とするが、それほど日本では日常的ではない。中国では古くから食用とされ野菜の1つとして白色の地下茎を油炒めにして食べる。
フキ
Petasites japonicus (Compositae キク科) 蕗、欸冬
 日本原産の多年草で地下茎を伸ばして増えてゆく。花は早春に咲き、蕗の薹(フキノトウ)と呼ばれる。花が終わる頃から葉が地下茎から直接出てくる。
 日本独特の、特有の芳香がある野菜で、葉は塩漬、砂糖漬、キャラブキに、葉柄は茹でてアク抜きして煮付け、味噌和え、つくだ煮に、蕗の薹は熱湯でアク出しをして味噌和え、汁の実にする。 「薹が立つ」というのは一般には盛りが過ぎたことを言うが、フキでは真っ先に薹が立つのはおもしろい。この植物は沖縄を除く各地にあり、北へ行くほど大型になり、東北地方ではこの葉を乾燥して昔、紙の乏しい時代にはトイレの落とし紙とした。
スギナ、ツクシ
Equisetum arvense (Equisetaceae トクサ科) horsetail 土筆、筆頭菜
 北半球に野生するシダ植物で、光沢のある黒褐色の地下茎が浅く伸び、所々に付いている零余子(ムカゴ)がはずれて、新しい植物体として芽を出し広がってゆく。
 春早く繁殖器官の胞子茎(ツクシ)が、その後に栄養茎(スギナ)が生えてくる。 胞子が出ない若いツクシを採り、節部にある葉の一種である葉鞘(ハカマ)を除き、よく灰汁でアク抜きし、煮物、和え物、浸し物など和食の椀種とする。スギナも若いものはアク抜きすれば食べられる。
ヨモギ、モチグサ
Artemisia princeps (Compositae キク科) 艾、蓬

 日本原産の多年草で、葉の裏面に灰白色の柔らかい毛を密生する。秋に黄褐色の目立たない花を沢山付ける。
 春先に芽を摘んで草餅に入れたり、良く茹でてアクを抜き、浸し物にしたり、御飯に炊き込みヨモギ飯にする。葉はヨモギ茶とし、塩味を付けて飲むと香りの良いお茶となる。昔の米は質が悪く粘性が少なく、餅を作るのに必要な"つなぎ(粘性)"に植物の毛を用いた。始めはハハコグサ(母子餅)が用いられたが、より毛の多いヨモギが用いられるようになった。
 葉の裏の毛はお灸に用いるモグサとする。成長した葉を乾燥したものを艾葉(ガイヨウ)と呼び、止血、腹痛に用いる。

タンポポ
Taraxacum platycarpum (Compositae キク科) 蒲公英

 各地に広く見られる多年草で、茎が伸びず、葉は地面に密生(ロゼット)する。 春に花茎が伸び、黄色の花が咲く。
 春に若葉を摘んで茹で、浸し物、和え物にする。ほろ苦味があるが、苦味が強い時は水にさらし、茹でこぼすと弱まる。花も茹でると乙な味のする山菜となる。
 根と一緒に焼酎に漬けても良い。根を金平にしたり、花や蕾の天ぷらもなかなかのようである。種類は多いがいずれも同様に食用となる。

スベリヒユ、ヒョウナ
Portulaca oleracea (Portulacaceae スベリヒユ科) 馬歯見

 温帯から熱帯にかけての各地に分布する「世界の道端植物」の代表とも言える1年草。 日当たりの良い所を好み、多肉質の紫赤色の茎は地面をはって伸びてゆく。
 夏に黄色の小花を付けるが、開花前の茎葉全体を採って、茹でて水で晒した後、浸し物、芥子醤油で食べる。納豆と和えても良く、酸味と独特のぬめりがあって美味しい。但しあまり沢山食べると下痢をする。茹でて乾燥し保存食とすることもできる、かっての救荒植物の1つである。
 民間で茎葉を煎じ、利尿、解毒薬とする。又ナマの茎葉をもんで汁を毒虫に刺された時に塗る。

和食は長寿社会を作る〈症状別 薬草(食物)検索〉

1.老人に多い症状・病気

(1)白内障
○ニンジン:カロチンが有効
●ニンニク:多食すると刺激が強く目の病気を悪化させる
●ショウガ、ミョウガ:眼病の人は多食を避ける

(2)気力、体力の消耗、疲労感
○ニンジン:常食すると効果がある
○ゴマ:良質なタンパク質と脂肪油に老化防止、強壮作用がある
○ニラ、ニンニク、ネギ
○ヤマノイモ:八味丸にも配合される滋養強壮食品
○鰹(カツオ):滋養食品
○鮃(ヒラメ):胃腸を丈夫にし、気力を充実させる

(3)老人性気管支炎
○フキ:鎮咳、去痰作用がある
○ウド:発汗、解熱作用がある
○コンブ:湯に通したものに砂糖をかけて常食すると老人の慢性気管支炎に有効
●タケノコ:咳、喘息を悪化させるので解毒作用のあるものと一緒に食べる(竹葉、竹瀝は逆の作用)

(4)足腰の衰え
○ゴマ:筋肉、骨を丈夫にする
○ネギ:関節リウマチにも有効
○ダイズ:黒大豆とショウガを一緒に付けた酒が関節炎、リウマチに有効

2.循環器系関係の症状・病気

(1)心臓病
○エンドウ:絞り汁を温めて飲むと心臓病に有効
○ハス(蓮根):強心作用がある
○烏賊(イカ):狭心症に有効

(2)高血圧
○エンドウ:絞り汁を温めて飲むと高血圧に有効
○セリ:高血圧症に有効         
○ゴマ:高血圧症に有効         
○シイタケ:コレステロールを低下させる
○コンブ:乾燥粉末又は煎液を連用すると有効 アルギン酸ナトリウムに降圧作用がある
○キュウリ:ツルに降圧作用が知られている
○鮪(マグロ):良質のタンパク質、コレステロール減少に効果のある脂肪、EPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む
●醤油、味噌、(塩):塩分が多いので大量に採るのは禁物

(3)動脈硬化
○コンブ:アルギン酸ナトリウムが有効
○アブラナ:菜種油はコレステロールを下げる
○シイタケ:コレステロールを下げる
○セリ:余分な脂肪を取る
○ニンジン:脂質の酸化を防止し、動脈硬化を防ぐ
○ダイズ、豆腐、納豆:レシチンは血管の若さを保つ働きをするため動脈硬化等の予防に有効
○鮪(マグロ):EPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む

 

3.泌尿器・内分泌系の症状・病気

(1)糖尿病
○エンドウ:膵臓の調子を整える
○セリ:余分な脂肪を取り血液の流れを良くする
○シイタケ:コレステロールを下げる
○ニンジン:血糖降下作用がある
○蛤(ハマグリ):口渇に効果がある

(2)むくみ
○キュウリ:利尿効果が大きい
○ヤブカンゾウ:水分除去作用がある
○コンブ:水分代謝改善作用がある
○酢:米酢が特に有効
○蛤(ハマグリ):発熱を除き、肝機能を活発にする
●醤油・味噌:塩分が多いのでむくみのある人は大量に取るのは禁物

(3)疲労回復・強精強壮
○ウド:絞り汁に強壮作用がある
○ゴマ:滋養強壮作用がある
○ニンジン:五臓を温め、潤し、血を補う
○鮃(ヒラメ):胃腸を丈夫にし、体力をつける
○鯛(タイ):腎を補い、体の中を温め、気力を充実させる

4.肝臓の機能に関連した症状・病気

(1)肝機能低下
○カブ:特に花に肝機能を高める働きがある        
○セリ:肝機能を整える        
○ナス:粥にして食べると肝炎に有効
○ヤブカンゾウ:肝炎の熱を冷ます
○蛤(ハマグリ):肝機能を活発にする