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東邦大学 薬学部
生化学教室 高橋 良哉
老化:いつから?止められる?戻れる? 

加齢速度と環境因子(温度・食餌・冬眠)−誕生から死までの生物時間の流れ−

2.ラットの寿命と食餌制限

 食餌制限によりラットやマウスの平均寿命および最長寿命が延長することは古くから知られています。ショウジョウバエ、線虫などの昆虫や魚類などの多くの動物でも食餌制限により寿命延長することから、食餌制限は寿命のメカニズムと密接に関連していると考えられます。

 食餌制限に関する実験の多くは、離乳期あるいは成熟期以降から生涯にわたるものですが、若齢期に短期の食餌制限を行っても寿命は延長します。例えば、Yuらは雄ラット(F344)に対し食餌制限(60%給餌)を42日齢から180日齢まで行い、その後自由摂食に戻しても寿命が延長することを報告しています。短期食餌制限の寿命延長効果は、生涯にわたり食餌制限を行ったものと比べ小さいですが、食餌制限期間と寿命(平均寿命および10%生存日数)との間には正相関がみられます。 このことは、食餌制限を若齢期のみ、あるいは若齢期から生涯にわたり長期間行っても食餌制限日数あたりの延命日数は同じであることを示しています(図4)。

 

 食餌制限によりラットの性成熟(膣開口)、マウスの生殖腺機能成熟および生殖可能期間の延長、加齢に伴うアンドロゲン依存の遺伝子発現低下が延長あるいは遅延します。食餌制限には、離乳期から生殖可能時期終了、おそらく死亡するまでの生物時間の経過速度を低下させる効果があるようです。