掲載:2010年5月18日

第104回鳥島アホウドリ調査報告

鳥島からひな327羽が巣立ち、鳥島集団の総個体数は推定2,570羽に!
アホウドリ集団は“超”順調に成長

 2010年4月6日から5月5日まで、第104回鳥島アホウドリ調査を行ないました。鳥島には4月7日午前に上陸、4月30日の午後、島を離れました。今年は鳥島でも本土と同様に天候不順で、24日間の滞在中、7日間も雨や強風、霧で、調査や観察を行なうことができませんでした。それでも、予定していた調査や観察、砂防工事の作業をやりとげ、満足のゆく成果を得ることができました。その結果を、下表に示します。

鳥島アホウドリ集団の2009-10年期の繁殖成績

鳥島アホウドリ集団の2009-10年期の繁殖成績
区域 生まれた卵の数 巣立ったひな数 繁殖成功率
従来コロニー
西地区
291
206
70.8%*
東地区
91
71
78.0%
小計
382
277
72.3%*
新コロニー
燕崎崖上
7
5
71.4%
北西斜面
57
45
78.9%
  鳥島全体
446
327
73.3%*

*注)2010年2月に、従来コロニーの西地区から15羽のひなが小笠原諸島聟島に運ばれ、人の手によって野外飼育されています。これらのひなが順調に巣立つと、それらを含めた巣立ちひなの割合は、上から順に、75.9%、76.4%、76.7%となります。

 

 

▼写真1 燕崎斜面の従来コロニー(2010年4月17日) 崖の中段から俯瞰

 

▼写真2 従来コロニー西地区(2010年4月24日) 手前が2010年2月半ばに流れた泥流

 

▼写真3 北西斜面の新コロニー(2010年4月18日) 
前中央の黒っぽい石の右側にいるひなの右に眠っている成鳥は、この新コロニーで1995年11月に産卵した最初のつがいの一方(両親の生存を確認)。
このつがいは、15年連続してまったく同じ地点で営巣・産卵し、これまで2回だけ繁殖に失敗した(1996、2001産卵年)。
したがって、このひな(矢印の鳥の左)はそのつがいの13羽目。

 

巣立ちひな数と繁殖成功率

 今シーズン、鳥島から巣立つひなの数は327羽で、昨年より21羽の増加です(小笠原諸島からの15羽を合わせると鳥島生まれのひなは342羽)。また、全体での繁殖成功率も昨年(73.2%)と同等でした。
 2005年7月以来、従来コロニー保全管理工事の補完作業を継続し、突風による砂嵐を防ぐために、ぼくは従来コロニー周辺部にチガヤの株を移植し、コロニー内にもシバやチガヤを移植して巣造りに適した場所を造成するなど、アホウドリの営巣地をいわば“きめこまかく”整備してきました。その効果はしだいに表れて、従来コロニーでの繁殖成功率は、2005年産卵期の59.2%、2006年期の67.8%から、2007年期の70.3%、2008年期72.9%、今期72.5%と少しずつ引き上げられてきました。もし、小笠原諸島に運ばれて巣立ちまで育てられたひなを含めると、この2007年期以降の割合(ひな数/卵数)は73.2%、77.1%、76.4%となります。おおまかにいえば、生まれた卵の3分の2が巣立っていた状態から、4分の3が巣立つように営巣地の好適さを改善することができたといえます。
 この差の約8%は、ひなの数に換算して30羽あまりとなり、小笠原諸島聟島に運ばれた数をじゅうぶんにまかなっています。つまり、鳥島集団の従来の成長率を十分に維持しながら、非火山の小笠原諸島に第3繁殖地を形成するための大計画を実行できていることになります。

 

鳥島集団の大きさ

これらひなを含めた鳥島集団の総個体数は、推定で2,570羽(成鳥1,093羽、繁殖年齢未満の若鳥1,150羽、5月に巣立つ幼鳥327羽)となり、昨年より210羽も増加しました。鳥島のアホウドリ集団は“超”のつくほど順調に成長しています。

 

泥流の影響

昨年4月の調査でぼくが懸念し(第101、102調査報告を参照)、11月の調査で予測したように(第103回調査報告参照)、今年2月の半ばに、低気圧の通過にともなう大雨によって、従来コロニーのある燕崎斜面で泥流が発生し、西地区に流れ込みました。その結果、8羽ほどのひなが生き埋められ、犠牲になったと推測されました(山階鳥類研究所の調査チームによる)。

 


▼写真4 西地区に流れ込んだ泥流と緊急工事のあと(2010年4月17日)

 

 しかし、従来コロニーでの繁殖成功率は72.5%で昨年(72.9%)とほとんど変わらず、ひな数自体も昨年より13羽だけ増加したことから、泥流による被害の程度はさいわい軽かったといえます。
ただ、現状を放置するわけには行かないので、2010年6〜7月に、環境省や山階鳥類研究所などによって、燕崎斜面の中央排水路に堆積した土砂を排除し、泥流の排水溝を掘削する砂防工事が実施される予定です。
そのため、ぼく自身は今年6月に砂防・営巣地保全管理工事の補完作業を行ないません。でも、この4月の滞在中に、燕崎の崖上の流域に設置されている砂防堰堤をいくつか補修しました(102回調査参照)。これによって、崖下に流れ落ちる土砂をかなり減らすことができるはずです。

 

 

 

余話:うれしい悲鳴

 アホウドリのひなの数が“飛躍的”といえるほど増えたため、個体識別のための足環標識の装着作業に3日間もかかるようになりました。だいたい1羽のひなに足環装着をするのに約4分間かかり(ひなに黒い布で作った袋をかぶせて落ち着かせてから、そのままひなを仰向けに寝かせ、両足だけを袋から外に出して、右足に足環をはめ、プライヤーでそれを固定する。このとき、ひなが前胃の内容物を吐き出したら、それを野帳に記録する)、1日に標識できる数は130〜140羽が限度です。
 足環装着の日には、朝4時30分ころ起き、軽く食事をして、5時15分すぎにベースキャンプを出発します。そこから燕崎斜面までは片道1時間10分の道程で、準備を整えて作業に取りかかれるのは6時45分ころになります。それから、16時45分まで10時間、作業をつづけます。ただ、途中で食事や水分補給のための小休憩など、約1時間を要するため、実働9時間です。したがって、15羽x 9時間で135羽となります。
 作業の片付けを終えて、燕崎を出発するのは17時過ぎで、帰途、18時15分ころに北西斜面の新コロニーに滞在している個体数を数え、ベースキャンプに帰ると18時30分ころで、もう暗くなりかけています。
 足環を装着するときには、膝を地面につけて(傾斜が22〜23度ある)、その上に仰向けにしたひなの足をのせます。これを何回も繰り返すと膝が痛くなるので、バレーボール用の膝プロテクターをスボンの下に着用します。ただ、座ったり立ち上がったりすることは省略できず、ときには少し腰を曲げて前屈みの姿勢をとらなければなりません。これを300回以上繰り返すと、腰にかなりの負担がくるらしく、ベースキャンプにもどってから横になったときに、少し痛みを感じるようになりました。齢を重ねた所為でもあるのですが、うれしい悲鳴といえます。今後、ひなの数はどんどん増えるはずなので、この作業にそなえて身体の鍛練をしようと思っています。

 

 

 

調査報告一覧