掲載:2009年6月5日

第101回鳥島アホウドリ調査(2009年4月)報告

鳥島から合計306羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は推定2360羽に!

信じられないひなの数の急増

今シーズン、鳥島から巣立ったひなの数はついに300羽を超え、306羽になりました。2006年に195羽、2007年231羽、2008年270羽でしたから、3年間に111羽(57%)も増えたのです。信じられないほどの急速な増加です。この他に、2009年2月に鳥島から小笠原諸島の聟島に運ばれた15羽のひなが、出口智広さん(山階鳥類研究所)を中心とするチームによって野外で飼育され、1羽も死亡することなく巣立ち、海に飛び立ちました。それらを含めると、今シーズン、鳥島で生まれて巣立ったひなの数は321羽になります。

調査結果

2009年4月5日から5月4日まで、第101回鳥島アホウドリ調査を行ないました。その結果を下表に要約します。

 

鳥島アホウドリ集団の2008-09年期の繁殖成績
区域 生まれた卵の数 巣立ったひな数 繁殖成功率
従来コロニー
燕崎斜面西地区
268
196
73.1%
東地区
94
68
72.3%
小計
362
264
72.9%
新コロニー
燕崎崖上
6
5
83.3%
北西斜面
50
37
74.0%
  鳥島全体
418
306
73.2%

注)燕崎斜面の西地区から15羽のひなが小笠原諸島聟島に運ばれ、人間による給餌を受けて野外で飼育され、すべて巣立ちました。
もし、それらを加えると巣立ち数は合計321羽になり、繁殖成功率は76.8%となります。

 

 

 鳥島全体での繁殖成功率は、今シーズン73.2%で、これまで最高だった2000産卵年の72.7%よりわずかに高く、近年(1979産卵年以降)の最高を記録しました。この数年間に、2004産卵年の50.0%から、2005産卵年の60.0%、2006産卵年67.7%、昨シーズンの70.7%、そして今シーズンの73.2%へと繁殖成功率は大幅に引き上げられました(第98回調査報告を参照)。それによって巣立ちひな数が急速に増加したのです。
 環境省・東京都は1993年から2004年まで砂防・植栽工事を軸とする「従来コロニー保全管理」を実施しました。ぼくは2005年以降も毎年6月に鳥島に行き、それを補完する作業を継続してきました(強風や突風によって発生する砂嵐から抱卵中の親や小さなひな守るために、コロニー周辺部にチガヤの株を移植し、丈夫な巣の形成を促すために、コロニー内部で植生が衰えて地面がむき出しになった部分にシバやチガヤを移植した)。この作業によって従来コロニーの営巣環境がいっそう好適になり、繁殖成功率が改善されてきたことは疑いないでしょう。

 

以下に従来コロニーの現在の景観を画像で示します。 

▼ 従来コロニー西地区(2009年4月)


 ▼ 従来コロニー東地区(2009年4月)


 ▼たくさんのひな(2009年4月)
 

 

 

北西斜面の新コロニー

 デコイと音声再生によって若鳥を誘引し、新コロニーの形成を人為的に促進した北西斜面では、2004産卵年に4組のつがいが産卵し、作戦の開始から12年を経て新コロニーが確立しました。その後、従来コロニーの混雑を避けて、繁殖年齢前の若い個体が新コロニーに移入し、新コロニーは急速に成長しています。確立から4年後の今シーズン、50組のつがいが産卵し、37羽のひなが巣立ちました。
 この新コロニーでの繁殖成功率は74.0%で、従来コロニーとほぼ同じでした。しかし、ここには初繁殖の個体の割合が高く(第100回調査報告を参照)、それを考慮すれば74%は“非常によい値”だと評価することができます。むしろ、従来コロニーでの繁殖成功率が大きく改善されて新コロニーとほぼ同等になったといえます。その新コロニーの様子を以下に示します。

 
▼ 若い鳥やひなでにぎわう新コロニー(2009年4月)

 

 

 

燕崎崖上のコロニー

 燕崎斜面の上部には高さ約100m余の断崖が屹立し、その上側にはやや平坦な場所が広がり、しだいに傾斜が増して子持山の頂(標高361m)へと連なります。その平坦な区域(標高250m前後)で、ハチジョウススキが小群落を形成している部分に、2004年からアホウドリが営巣を始めました(ここではコロニーが自然に形成された)。今シーズン、ここでは6組が産卵し、5羽のひなが巣立ちました。
 ここでの繁殖成功率は83.3%で、鳥島のなかで最高でした。しかし、営巣に適した場所(ススキの群落)が著しく限られているので、このコロニーが急速に成長する可能性はほとんどありません。繁殖つがい数は当分、10組以下にとどまるでしょう。この区域の景観を画像で示します。

 

▼ 燕崎崖上のコロニー(2009年4月)

 

 

鳥島集団の総個体数

 昨年12月初旬、鳥島集団の繁殖つがい数は418組でした。アホウドリの配偶形式は一雄一雌で、毎年繁殖し、繁殖年齢(産卵から数えて7年後)に達した個体のうちの約80%がある年に実際に繁殖すると推定されます(その他の20%は再婚活動中か繁殖を休止している)。そうだとすると、2008年12月時点で繁殖年齢に達した個体の数は1045羽となり、それ以後6月までの半年間に2%が死亡したと考えられるので(成鳥の生残率は年96%と推定)、生存していると想定される成鳥の総数は1024羽となります。
 繁殖年齢前の若鳥の生残率は一定で年95%とし、1歳から6歳までのそれぞれの年齢の生存個体の数を推定して合計すると、若鳥の総数は1030羽となります。これらに、鳥島から巣立った幼鳥306羽を加えると鳥島集団の総個体数となり、2360羽と推定されます。昨年より220羽の増加です。

 

来シーズンの予測

 来シーズン、鳥島では約450組が産卵すると予測され(第100回調査報告を参照)、繁殖成功率が過去2年間の平均72%であれば、324羽のひなが巣立つと推定されます。これらのひなの一部は小笠原諸島聟島列島に運ばれて野外飼育されますが、鳥島から巣立つひなの数は来期も300羽を超えるにちがいありません。

 

 

 

中央排水路への土砂の流入・堆積と2009年6月の保全作業

 2008年5月に鳥島に接近した台風によって、2004年6月に実施された土砂除去から4年ぶりに、約450m3の土砂が中央排水路に流入して堆積しました。その後、2008年11月には、燕崎斜面の最上部(崖下部分)にかなりの土砂が上流から運ばれた堆積していましたが、中央排水路まで達しませんでした。
しかし、2009年4月にはそれらが泥流となって中央排水路の下端まで流れ下り、そこに丘状の堆積を形成しました(新規堆積量はおよそ100〜150m3)。そして、もしつぎに泥流が発生すれば、その上流側から従来コロニーの西地区に大量の土砂が確実に流れ込みます(以下の写真を参照)。

 

▼ 中央排水路に流れ込んだ土砂(2009年4月)

 

▼ 排水路に堆積した土砂(2009年4月)

 

そのような事態になれば、西地区の営巣環境が悪化し、繁殖成功率が低下して、巣立ちひな数が減少します。それを防ぐために、2009年6月中旬に以下の「従来コロニー保全管理」補完作業を行なう予定です。

1回でこれらの作業を完成させることは不可能なので、とくに 2)の作業を来年以降も継続します。

 

 

調査報告一覧