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東邦大学名誉教授
佐藤 研二
人類と火の歴史火とはなにか?

火炎の科学と物理―物質と燃焼の基礎知識―

燃焼のいろいろ

燃えやすいもの、燃えにくいもの(有機物と無機物)

有機物は燃えやすい

 木や紙など、身の回りには炭素を含む有機物が多く見られます。有機物の多くは動植物によって分解され再合成されて体内や排泄物などに蓄えられたものです。有機物は物質内に蓄えられた化学的なエネルギーを放出してより安定した状態に戻ろうとします。そのため、燃えやすい性質を持っています。とりわけ、炭素を多く含む有機物は、熱を加えると可燃性のガスを発生し、酸素と結びつきやすくなります。

 有機物は熱を加えることにより、もともとの物質が分解され、中に入っていた炭素などが燃えやすいガスの状態で外に出て行きます。これが可燃ガスです。これらのガスが酸素と結びつき、光や熱を発します(この光と熱が火の正体です)。炭のように炭素がガスの状態にならないまま燃える場合もあります。また、外に出て行ったもので酸素と結びつかなかったものは煙やすすとなります。

燃えにくい無機物、燃えやすい無機物
岩石に含まれる無機物の例

 自然界には、エネルギーの低い酸化されて安定した状態になった無機物が多く存在します。石や岩石はこの部類に入ります。これらは燃えにくい無機物です。

 一方、同じ無機物でも金属単体は酸素と結びついていないので、燃える可能性があります。
アルカリ金属(ナトリウム、リチウムなど)は反応性が高いので燃えやすい金属です。

 鉄は反応性があまり高くないので、室温の空気中では熱を奪われやすい塊の状態では燃えませんが、スチールウールの形になると燃えることができます。また、高圧酸素中では鉄は塊でも燃えることができます。

 軽金属のマグネシウム、アルミニウムは、鉄に比べると燃えやすい金属と言えます。

 アンモニアや、人工的に作られた不安定な無機物質の中には燃焼するものがあります。

 また、空気中の酸素とは無関係に薬品同士が混ざって反応して燃焼を起こす場合もあります(混合危険)。

水分を含んでいるものは燃えにくい

 有機物を燃焼させる場合でも、水分を含んでいるものと乾いていいるものとでは燃えやすさに差があります。

 水には気化することによって物体から熱を奪うという作用があります(蒸発潜熱)。

蒸発潜熱の実験

 熱した鉄のフライパンの上に同じ材質の紙コップを二つ置きます。このとき、片方の紙コップには水をたっぷりと入れておきます。

 このフライパンを熱しつづけると、水の入っていない方のコップはやがて白い煙が発生します。水の入っているコップでは、中の水が沸騰し、蒸発を始めます。

 さらに熱しつづけると、何も入っていない紙コップは炎をあげて燃えてしまいます。

 水の入っている紙コップは、中の水はどんどん蒸発していきますが、水がなくならない限り燃え出すことはありません。水が気化することによって熱を奪い、紙コップが燃焼するのに必要な温度に至らないからです。しかし、このままどんどん熱し続ければ水は全て蒸発してしいますので、水を失った紙コップもやがては燃え始めます。

 

 このような水の働きによって、水分を多く含む物質は水の沸点である100度以上にはなりにくく、燃えにくい性質を持っています。

 例えば、乾いた紙を直接火にかざせばあっという間に火が燃え移りますが、濡らした紙は水の気化熱によって温度がなかなか上がりません。
 加熱を続けると水分がすべて蒸発し、気化熱を奪われることがなくなり乾いた紙同様に発火します。

物質の状態と燃焼

 物質の状態による燃焼の違いをアルミニウムを例に見てみましょう。

無機物である金属も燃える!

 板状に加工されたアルミニウムをバーナーの上で熱してみます。
 しばらく熱していても、有機物のように簡単に火は点きません。
  実はアルミニウムは常態で空気中の酸素と反応して表面に緻密な薄い皮膜を作り、不動態と言われる非常に安定した状態になっています。そのため、酸素と簡単には結びつきにくい状態にあります。
  では、アルミニウムを燃焼させるにはどのような状態にすればよいでしょうか?

 アルミニウムを粉末にし表面積を増やし、保護膜も取ってしまうとアルミニウムは非常に酸化しやすい状態になります。
  これをバーナーの火に投じてみます。すると、アルミニウムは閃光を放ち、一瞬にして激しく酸化します。

 アルミニウムに限らず、無機物もこうした条件の変化によって燃焼させることができます。

アルミニウムの酸化
アルミニウムの酸化

炎の出る燃焼、出ない燃焼

炎の出る燃焼

 ロウソクが燃える場合にはロウが一旦液体となり気化し、可燃ガスとなって酸素と結びつき、気相燃焼がおこります。このように一旦液化してから気化した物質が酸化する状態を蒸発燃焼といいます。

 木や紙が燃える場合には、液体にはなりませんが熱によって分解され、気化した可燃ガスが気相燃焼します。

炎の出ない燃焼

1)表面燃焼

 たばこ、炭のように物体の表面だけで酸化がおこり燃焼する場合を表面燃焼と呼びます。

 表面燃焼が起こる場合のうち、たばこのような熱分解と表面燃焼が組み合わさった状態で燃えるような場合をくん焼と呼んでいます。くん焼では熱分解で発生したガスが冷やされて白っぽい煙をたくさん発生します。

2)触媒燃焼

 白金やパラジウムなどに液体燃料(ガソリンやアルコールなど)を染み込ませ、白金面上で液体が酸化燃焼する場合を触媒燃焼といいます。酸素供給の少ない環境でゆっくりと燃焼を持続させることができます。このほかにもっと高い温度で触媒燃焼をさせる場合もあります。

予混合燃焼、拡散燃焼

予混合燃焼とは?

 ガスバーナーのようにあらかじめ酸素と可燃性ガスが混合してあるガスの燃焼を予混合燃焼といいます。家庭用のガスコンロなどで利用されているのが、この予混合燃焼です。

 理科の実験などで使用するブンゼンバーナーは、管の根元にある小窓から空気を取り込みます。取り込んだ空気を可燃性ガスと混合し、バーナーの口から噴出します。このとき空気は、上方向への流れによって小窓から吸い込まれます。

 予混合燃焼でも、バーナーで空気を送り込む量を少なくすると燃料(炭素)が過剰になり、炭素が光を発するために一部が赤く見えることがあります。

予混合燃焼

拡散燃焼とは?

 ロウソクのように火炎面を挟んで可燃性ガスと空気(酸素)が反対側から火炎に供給されている場合を拡散燃焼といいます。

 ロウソクの場合は、解けたロウが熱によって気化し可燃性ガスに変化したものが、外から吸い寄せられた酸素と結合して燃焼します。
  赤い部分が明るいので実際にはほとんど目に見えませんが、その外側に青い炎があります。実はこの青い炎が可燃ガスと酸素の反応している部分です。
  赤い光は熱によって遊離した炭素(すす)から発せられています。このように炭素が光っている炎を輝炎(きえん)と呼びます。輝炎は放射熱が強く、加熱用に適しています。

拡散燃焼

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