東邦大学へ メディアネットセンターへ バーチャルラボラトリへ
東邦大学名誉教授
佐藤 研二
火とはなにか?いろいろな燃焼

火炎の科学と物理―物質と燃焼の基礎知識―

人類と火の歴史

最初の火

 人類が最初に手にした火は自然火災によってもたらされたものだと考えられています。落雷によって起きた森林火災から持ち帰ったのか、火山の噴火によって流れ出た溶岩から木に燃え移ったものを手に入れたのかは解りません。しかし、火災によってこうむる火傷の痛みや燃えさかる炎への本能的な畏怖(いふ)=恐怖心を想像すると、持ち帰るのがたとえ小さな種火であっても、大変勇気の要る大仕事であったと想像できます。

 このようにして手に入れた火は、夜の闇を照らす「明るさ(光)」と「暖かさ(熱)」を与えてくれました。まだ自分たちで火を起こすことのできなかった人々は、夜行性の獣から身を守ってくれ身体を温めてくれる火を大切にし、これを絶やさぬように番をして守りつづけました。

 1929年には中国の周口店で発見された50万年前の北京原人の遺跡から火を使った痕跡が発見されていますので、人類と火の歴史は少なくとも50万年前にさかのぼると考えられます。

 やがて、偶然からか、風でこすれあう木の枝から発火するのを見た者が自然から学び取ったものか、人類は発火の術を手に入れます。
 渇いた木を横に寝かせ、その木に垂直に別の木を当ててこすり続け、摩擦によって熱を蓄えて発火させる方法は世界各地で行われたようです。

火にまつわる神話

人類が火を手に入れた経緯については様々な神話にもそのエピソードが語られています。
そして これらの物語は、悲劇的な結末を含み、火のもつ力について人類に警告を与えているかのようです。

 
日本の神話

イザナギノミコトとイザナミノミコトは二人で力を合わせて国を生み、たくさんの神々を生みます。最後に生んだのが火の神(ヒノカグツチノカミ)です。
しかし、 イザナミノミコトは最後に生んだ火の神の炎で酷い火傷を負い、この傷が元で死んでしまいます。
イザナギノミコトは亡くなった妻イザナミノミコトを取り返しに黄泉(よみ)の国へと赴きます。しかし、黄泉の国の食べ物を口にしてしまったためにイザナミノミコトは恐ろしい姿となっており、約束を破ってその姿を見てしまったイザナギノミコトは、驚いて命からがら逃げ出します。

 
ギリシア神話

ギリシヤ神話では、プロメテウスが太陽神の二輪車で燃え盛る火を盗み、人類に与えたことになっています。
人類に火を与えたプロメテウスは、ゼウスからひどい罰を受けた後、地獄に落とされてしまいます。
また、プロメテウスの弟エピメテウスはゼウスからある箱を贈られます。その箱はゼウスが人類に罰として与えた災いの箱でした。
エピメテウスの妻、パンドラはこの箱を開けてしまい、この箱から様々な災が広がったとされています。これが有名なパンドラの箱です。

 

火の発展

アリストテレスが4元素説を広めてからおよそ2000年もの間、火は謎に満ちた物質として神秘のベールに包まれていました。
やっと、燃焼(ねんしょう)と酸素の関係が知られるようになったのは18世紀になってからです。
産業革命に後押しされ、燃焼に関する研究は急速に発展を遂げることになります。

 
年代
事件
概要
*50万年以上前 人類が火を使う 50万年前のものと思われる中国・周口店(しゅうこうてん)の北京原人の遺跡から火を使っていた痕跡が見つかった。
*数万年前-7000年前 火を作り始める 石器時代。人類が火を起こし始める。
紀元前4000ころ 焼レンガ制作される メソポタミア人がかまでレンガを焼き始める。(一般にはまだ日干しレンガが使用されていた)
紀元前4世紀頃 アリストテレスが四元素説を広める ギリシアの哲学者アリストテレスが「四元素説」を発表。火・水・土・気を元素とし、物体はすべてこの4つの元素によって構成されているとする説。
7世紀頃 ギリシア火の使用 673年のビザンツ帝国のコンスタンティノポリスの包囲攻撃において、ギリシア火が使用された。硫黄(いおう)、硝石(しょうせき)等を溶かした油を管に入れ、火炎を噴出する火炎放射機のようなものだったといわれる。
1221年 中国で大きな殺傷能力をもつ火薬を製造 それ以前も火薬が使用されてはいたが、爆発音による威力に頼っていた。また、中国で最初に火薬が発明されたのは西暦100年ころとの説があり、早くから使用されていたと考えられる。
13世紀中頃 ヨーロッパで火薬についての記述が残される マルクス・クライクス著『火の本』(1250)において「飛ぶ火」について、またロジャー・ベーコンも著作の中で「黒色火薬を作る方法」についての記述が残された。
18世紀初頭 フロンギストン説の流行 シュールらがフロンギストン(=燃素(ねんそ))説を提唱。火には熱素、光素(こうそ)、燃素(ねんそ)が含まれていると考えられた。
1769年 蒸気機関の発明 ジェームズ・ワット(英)蒸気機関を発明。
1772年 酸素の発見 プリーストリー(英)、シェーレ(スウェーデン)は燃焼を科学的に研究して酸素を発見。
1777年 質量不変の法則発見 ラボアジェ(仏)が燃焼は酸素との化合であることを示し、さらに化学変化において質量が保存されることを定式によって示し、質量不変の法則を広めた。
1827年 マッチの登場 1827年摩擦(まさつ)マッチ(塩素酸カリ+硫化アンチモン)をウォーカー(英)が発明、その4年後、黄(おう)リン摩擦マッチ(黄リン+塩素酸カリ)の登場。
1866年 ダイナマイトの発明 19世紀半ばニトロセルロースとニトログリセリンの合成始まる(各地で工場での爆発事故相次ぐ)。
1866年アルフレッド・ノーベル、ニトログリセンリンの実用化に成功し、ダイナマイトを発明。
19世紀中-後期頃 ガスエンジン、ガソリンエンジンの発明 1859年ルノワール(仏)がガスと空気の混合物をシリンダーに吸い込み、スパークで点火するエンジンを発明。1885年にダイムラーとマイバッハはガソリンを霧状にして空気と混合する高性能のキャブレターを設計し、現在のエンジンの原型である高速ガソリンエンジンを作った。
1937年 ジェットエンジンの発明 ウィットル(英)がジェットエンジンを発明。 ジェットエンジン・ジェット燃料について

目次にもどるHOMEへ次の頁へ