トランスバーサル・フィルター Transversal filter |
線形システムはそのインパルス応答 によって一意的に表現できます。 入力 と の関係はコンボリューションによって与えられます。 トランスバーサルフィルター(transversal filter )は、まだディジタル信号処理が出来なかった時代に、フィルターをアナログ遅延線を用いて実現しようとしたものです。 時間きざみを として、上の積分を離散化すると、
のようになります。 この総和を有限個で打ち切ったものを下に図示します。 ディジタル通信で用いられる自動等化器のほとんどはこの構造で、 を可変にしたものです。 英語の "transversal" は、「横断的な」あるいは「横軸の」を意味し、下の構造を幾何学的に表現しています。
遅延 秒の周波数特性は ですから、これを で表すと、上のアナログトランスバーサルフィルターの周波数特性は のように書けます。 これは を周期とする周期関数です。 もし、入力 が 内に帯域制限されているならば、スペクトル変換過程は下図のようになります。
このアナログモデルで、出力 を 秒周期でサンプルすると、
ですが、 も も も の整数倍の時刻のサンプルだけですから、次のように簡単に書けます。
ここで、 と が に帯域制限されていれば、この離散構造はなにも情報を失っていませんから(標本化定理参照)、出力 を帯域 の理想低域通過フィルターに通せば連続モデルの出力 を復元することができます。 スペクトルの変換過程は下図のようになります。
ディジタル通信で広く用いられる等化器として、ダブルサンプリング等化器があります。 これは送信シンボルの周期 の半分でサンプリングします。 上の構造で、 に選んだものです。 一般に、送信パルスのロールオフは100%以下ですから、標本化定理を満たしています。 出力 は 秒周期ですが、送信シンボル周期が 秒周期なので、 を一個おきに間引きして送信シンボルを判定します。 この間引きの段階では標本化定理が崩れてしまいますが、ディジタル通信では、このことは矛盾を引き起こしません。 その様子は以下のようになっています。 を出力する段階までは標本化定理を満たしていますから、そのスペクトル操作では下図のようにスペクトルの重なりを起こしません。 すなわち、標本化定理を満たした状態で、重み係数 が調整されますが、この調整は一個おきに間引きした結果(標本化定理を満たさなくなる)が平坦特性になるように行われます。 本来、データは、 秒周期で送られてくるので、 を 秒周期でサンプルしてもよさそうですが、こうするとトランスバーサルフィルターの過程を標本化定理を満たさない状況で考えなければなりません。 このような等化器をシンボルレート等化器と呼んでいます。
シンボルレート等化器では、
とします。 このとき、入力 (等化の対象となるベースバンド信号)のサンプリング系列はロールオフ特性のために標本化定理を満たしません。 シンボルレート等化器では、このようにスペクトルが重なった状態で信号が入力されます。 上は概念図なので位相特性を描いていませんが、信号がチャンネル歪を受けると大きな位相歪を受けて、重なりの部分はどんな形になるかわかりません。 もしかしたら、重なり部分でスペクトルヌルが発生するかもしれません。 もしスペクトルヌルが発生すれば、等化器はそれをカバーするために無限大の特性を実現しようとし、等化性能が劣化します。 |