鉱石ラジオ    Crystal radio

 講義で、「鉱石ラジオを知ってる人〜?」って聞くと誰も手を上げない。 もう、アナログの時代は大昔に終わったのですね。 現代は、まずAD変換して、あとはディジタル信号処理という時代。 そして、どんどんバーチャルな世界に入っていく未来! でも、まだAMラジオは立派に役立っていますよね。 写真は、お台場の日本科学未来館で購入したスミソニアン博物館製の鉱石ラジオのキットです。 写真から分かるように、部品は、コイルと可変コンデンサーとダイオードとイヤホンしかありません。 バッテリーはありません。 部品の原価からすれば、ちょっと高かったぞぉー! ぼくが中学生のときは、呉服屋さんでもらった反物の芯にエナメル線をぐるぐる巻いてコイルを作り、タバコ(当時はピース)の銀紙でコンデンサーを作って学校に持っていった。 理科の先生が、ダイオードとイヤホンを配ってくれてラジオを聴いた。

 

 

線形変調で紹介したAMAmplitude Modulation: 振幅変調) は同期検波を前提にしていました。 原理はシンプルで理解しやすかったと思います。 でも、同期検波をアナログ素子で作ろうとすると、チューニング(選局)回路、掛け算器、多周波発生回路、搬送波周波数制御など、かなりやっかいです。 われわれが聞いているAM ラジオの受信機ではこんなやっかいなことはしていません。 原理は鉱石ラジオと同じです。 ただし、鉱石ラジオは ”線形変調で説明したAM 信号”対しては聴くことができません。

ラジオ放送のAM 変調波は、送信ベースバンド信号に直流を加算して搬送波の振幅を変調します。

この変調スペクトルには、搬送波周波数の大きな線スペクトルが乗っているので、「搬送波強調AM 」などと呼んでいます。 下に、 と変調波のスペクトルを示します。

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受信側では、まず放送局を選局しなければなりません。 選局は、AM もFM も、すべてについて必要不可欠な回路です。 下図からダイオードを取り除けば、線形システムで触れたインピーダンス回路です。

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各放送局の電波がコイルを通過すことによって、コイルに電流が流れ、この電力でイヤホンが鳴ります。 受信の第一歩は放送局の選局です。 上の回路のコンデンサーを変えて選局が行われます。 線形システムではコイルとコンデンサーが直列になっていましたが、ここでは並列になっています。 基本的な動作は大差ありません。 この回路の抵抗 を流れる電流 に関する微分方程式は

であり、伝達関数はラプラス変換表示で

のようになります。 ここで、 は微分作用素であり、その周波数特性は なので、これを に代入すれば、この回路の周波数特性が得られます。 コンデンサーの容量を変えると、下図のようにチューニング周波数が移動することがわかります。

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鉱石ラジオではダイオード(整流器)が重要な働きをします。 これは、電流の片方向のみを通し、反対方向を阻止する働きをします。 したがって、この回路を流れる電流は下図のようになります。

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抵抗 はイヤホンの内部抵抗を表しています。 実際にはイヤホンから音を発するために、電流がここで消費されますが、無視しておきます。 下図は、整流された信号の周波数スペクトルですが、ベースバンド成分と搬送波成分の整数倍の成分に分離していることがわかります。

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イヤホン自体は、ベースバンド信号を選択する低域通過炉波器であり、同時に直流 をカットするので、送信ベースバンド信号 が聴こえるというわけです。