海藻押し葉工房

海藻押し葉のつくり方

海藻押し葉つくりの実際

大型海藻の押し葉つくり

 ワカメやコンブなど1mをこえる大きな海藻は、1個体をいくつかに切り分けて押し葉にしたり、できるだけ小さな個体を選んで押し葉としています。若いワカメや若いコンブは、種の特徴も、生育地の特徴的な形をも見いだすことはできません。そこで、大きな台紙を買ってきて、大きな押し葉を作っても、今度はそういった大きな押し葉を収納する標本庫がないのです。大きな押し葉を作っても邪魔になるものを残すだけでした。また、大きな押し葉を収納する標本庫があっても、よく乾燥できないままに保存すると、カビが生えたり、ひび割れたり、台紙から剥がれてきたりと美しい押し葉はできませんでした。

  そこで、大きなコンブ科植物は、グリセリン・アルコール液に浸漬し、よくグリセリンに浸透した後に取り出してつるし下げて余分なグリセリンを落としたものを袋やビンに入れて保存する方法がとられています。展示するときには取り出して拡げると生の時のような感触ですが、数年の間には次第に収縮してきます。また、黒ずんだり、色が抜けて汚らしくなってしまいます。
  展示当初は素晴らしくても、まもなく悲惨な状態になり、コンブのイメージを悪くするだけの展示物になってしまいます。やはり、押し葉としたものの方がはるかに美しい形をのこすことができます。

  最近では、合成樹脂が容易に入手できるようになりました。生の海藻を急速に乾燥させる方法として凍結乾燥という方法があります。コンブのような大型の海藻をそのまま凍結乾燥することは容易なことではありません。しかし、魚や肉を凍結保存するような大型冷凍庫に入れておくと、1ケ月ほどで乾燥してしまいます。これに、合成樹脂を塗って乾燥すると、ほぼ実物に近いコンブの標本ができます。展示のためにはよい標本でも、保存するには難点の多いもので、保存にはやはり押し葉とする方がよいのです。

  「アピレン」という合成糊がありました。30年も前に、千原光雄先生がアメリカから帰国して間もない頃に、国立科学博物館に持ち込まれたものでした。1本200gの透明な液体で、植物の葉や海藻を台紙の上にのせ、その上にこのアピレンを塗ると、新聞紙に挟むような手間もなしに押し葉ができるという夢のような新製品として紹介されたものでした。しかし、そんなに簡単に押し葉ができることはなく、誰もこれを使って押し葉を作ったという話もありませんでした。

  1975年ころ、「紺野美佐子の科学館」というTV番組でワカメを取り上げるので手伝ってくれとたのまれました。スタジオ用に、大きなワカメの押し葉を作くることになりました。その時に、手元にあったアピレンを水に溶き、この水溶液にワカメを浸漬してから台紙にのせて拡げ、これにサラシ布をかけて新聞紙にはさみ、新聞紙を交換して乾燥したのです。
  結果はワカメは台紙にピッタリと貼りついて、巨大なワカメをスタジオに立ち上げることができたのです。そこで、その時にいただいた謝金でアピレンを買ったのです。

 はじめてアピレンを見てから10年以上もたっていましたが、名古屋の工場から500本のアピレンを入手しました。工場でもとうの昔に製造を停止していたのですが倉庫に眠っていたアピレンを全部引き取ったものでした。当時、小生はとても貧乏だったので250本を買い、残りの250本は土壌生物の包埋に使えるということで生態学の先生に買ってもらいました。
  このアピレンをずっと使わずに持っていたのです。そして、山田のワカメの押し葉に使ってみたのです。

 他に木工ボンドや、アラビアゴムノリや障子糊、ヤマト糊などもためしてみたのですが、多くのノリは乾燥途中でひび割れを生じたり、パラリと剥がれたり、変色したりしたのですが、アピレンがもっとも効果的だったのです。

次は 実際に作ってみた巨きな押し葉:日本一のワカメ展

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