山野に生える多年草。以前はキンポウゲ科に含まれていたが、今は独立してボタン科。
40年ほど前は丹沢や秩父、奥多摩などでふつうに見ることができたが、今では探すのにも苦労する。山を歩いていて一株でも会えると、とてもラッキーに思える。そのくらいに激減してしまった植物のひとつ。
私が一番多くヤマシャクヤクを見ることができたのは丹沢の自生地だ。沢登りをしていた45年前頃に出会った場所だ。その生育環境は、傾斜地にある木漏れ日の当たる明るい林床だった。ざっと見て600株はあったのではないかと思う。4年前に訪れた時には一株も見当たらなかった。山野草ブームによる乱獲の影響だろうか。珍しい品種や人気のありそうな植物は、各地で盗掘されているのが現状だ。丹沢の自生地からヤマシャクヤクが無くなってしまったのが盗掘の影響だとすると困ったものである。
ヤマシャクヤクの開花期は4月中旬から5月頃。株によっては1日足らずで花びらが落ちてしまうものがある。なので、きれいな姿を観賞できるのは最大で4日間ほどが限界だろうか。ヤマシャクヤクの開花時期を「このぐらいだろう」と見当をつけて自生地を訪れてみるが、その年の気候によりかなりずれて、見られないことも多い。これまでに最大で20日ほどずれたことがあった。そのように開花が気候に左右されやすい花なので、ちょうど良い時に出くわすのはとてもラッキーなことで、ハッピーな気持ちになる。縁有って、今年は福島県でヤマシャクヤクの自生種を見ることができた。現地の知人から咲きそうな時期を連絡してもらい、写真を撮ることもできたのだ。有難いことである。
ヤマシャクヤクは9月に入ると成長が止まり休眠期に入る。増やすなら、この休眠期(9月~2月頃)が植え付けの時期になる。この時、芽数が多いと株分けで増やすことができる。また、早いもので9月下旬頃から実が熟す株もある。なので、取り播きとすることが可能なのだが、春まで保管しておいたタネは、なぜか発芽率が落ちる。
ヤマシャクヤクは、根が無くても芽があれば増やせる。勿論、根があるに越したことはないが、根の有無よりも大切なことは乾かさないことである。ちなみに、実生では開花までに早いもので4年。ふつうに咲きそろうには6年ほどかかる。一度乱獲された自生地にヤマシャクヤクをほとんど見ることができなくなるのは、このせいなのだろう。
今は観賞用として栽培されたヤマシャクヤクの販売が盛んだ。九州産のものが多い。また、近年の山野草展ではヤマシャクヤクの斑入りが高値で取引されており、一時のシュンランを思わせる勢いだ。斑入り種は実生で作り出されているようで、今では珍しいものは30万円を超えるものが出てきている。
(ヤマシャクヤク/ボタン科 2022年9月.記)