

各地の山野に生える落葉高木。サクラが葉桜になった頃に開花するサクラの仲間。木姿はサクラに似る。小さな白い花が穂状に集まって咲く様子はまるでビン洗い束子のようだ。花後、濃紫色に熟した実はジャムや果実酒として利用できる。
私は子供の頃、ウワミズザクラの実が赤黒くなると摘んでよく食べていた。口に入れた直後は渋苦いのだが、食べていると渋味で舌の感覚が麻痺するのか酸味と甘味を感じるようになるのだ。特別美味しかったわけではないが、それが面白くて敢えて食べていたように思う。赤黒い実は完熟の一歩手前で、黒く完熟すると鳥が食べてしまうのでその前に食べていたのだ。私がウワミズザクラの実を食べているとヒヨドリが高い所から見ていてピーピーピーと物凄く騒がれた。きっと「私の物だから食べるな!」と言っていたのだと思う。私がなぜウワミズザクラの実を食べられると思ったのかというと、親父の猟仲間のおじさんがウワミズザクラの実を焼酎漬けにする作業を見ていたからである。なので、毒ではないと判断したのだ。ウワミズザクラの実を見るとその頃のことを懐かしく思い出すことがあり、たまに食べてみるのだが決して美味しいものではないように思う。
以前、「ヤマザクラの実生」として薬草園に持ち込まれた苗があった。私がヤマザクラが欲しいと言っているのを知った知人が持ってきてくれたのだ。だが、よく見るとヤマザクラではなくウワミズザクラだ。それを伝えるとがっかりされた様子だった。話し合った結果、当薬草園で栽培することになった。栽培を始めて3年後、数穂ではあるが綺麗に花を咲かせてくれた。苗が持ち込まれた時には実生2年のように見えたので、実生5年で開花したことになる。苗を持ってきてくれた方は忘れてしまったのか、それから一度も来園されていない。コロナ禍であり来園できなかったものと思う。当薬草園には植栽のない樹種であったので有難かった。次にお会いできたらお礼を伝えたい。
(ウワミズザクラ/バラ科 2023年12月)