山野に生える常緑高木。古典園芸植物のひとつでもあり、観賞用として植えられ古くから楽しまれるほか薬用にもなる。
国内に自生しているツバキの多くはヤブツバキだ。ヤブツバキと一口に言っても、産地によりかなり個体差がある。具体的には花色、花の形、花の咲き方。葉の形、葉模様などだ。本当に多様で愛好家もかなり多い。私もそのひとりだ。私はツバキの花が咲いていると、つい写真を撮り、記憶の中のツバキと見比べてしまう。
私は登山が好きで、以前は数十キロの荷物を背負って南アルプスの山々に毎月のように出かけていた。だが、椎間板ヘルニアを患ってからは尾根歩き登山ができなくなった。今はカメラとビデオカメラだけを持って登れる筑波山によく行っている。その筑波山だけでもいろいろなツバキが見られる。山中の古いツバキの一枝に金魚葉を見つけた時は驚いた。「野生で本当に葉が変化するんだ!」と。私は金魚葉のツバキを見たくて、その古いツバキの元へ数年通って様子を観察していた。だがある時、金魚葉のついた枝は枝元から切られて無くなっていた。やられた!その古いツバキに咲いていた花は中輪で薄めの赤色だった。
他に、珍しいものとしては白花のツバキが2本あった。ヤブツバキで白い花弁はとても珍しい。だが、ある日見に行くと白花のツバキがあったその場所には掘られた穴だけが残っていた。盗掘されてしまったのか。現在、筑波山で私がよく歩く場所に白花のツバキを見ることはなくなってしまった。
実は、こういったことは筑波山だけではない。日本各地で数えきれないほどの珍しい、貴重な植物が盗掘により自生地から無くなっている。そのため、人の手をかけて保護されている場所でしか見られなくなってしまった植物も少なくない。残念なことである。
40年ほど前のことだ。私は新潟県に住む人に会うことになった。その人は花が好きだと聞いていたので、土産に私のお気に入りのツバキ苗を何本か持って行ったところ「ツバキの花の落ちる様子がまるで首が落ちるようで縁起が悪いから、屋敷には植えられない。」と、断られてしまった。植物の種類を問わず、地域によってはこのようなこともあるので気を付けたいものだ。
(ツバキ/ツバキ科 2021年12月.記)