山地に生えるシソ科の多年草。夏に白い小さな花をたくさん咲かせる。半日陰を好む。東京都の高尾山や埼玉県の武蔵丘陵森林公園などでも見られる。
毎年12月に入ると、私はシモバシラに面白い現象が起こるのを楽しみにしている。誰が名付けたのかは知らないのだが「シモバシラ現象」と呼んでいる。だが今年は、暖冬の影響か未だ見られず。朝5時半時現在、今朝もまだ外気温は8℃あり、十分に下がり切っていない。私の経験上、習志野キャンパスでは朝の気温が-3℃まで下がらないとシモバシラ現象は起きてくれない。先日も、寒波がやって来たので冷えることを期待したが結果は3℃止まりで、期待は空振り。早い年では12月上旬で見られるのだが、今年の冬はシモバシラ現象を見ることはできないのだろうか、と落胆している。
シモバシラは秋になると地上部は枯れる。その根元から水分を吸収し、毛細管現象により茎の中を水分が上がっていく。その水分が外気に触れると凍る。冬、寒さで地面に霜柱が立つ頃に、このシモバシラ現象が起こる。私の経験上、習志野キャンパスでこの現象が起こる条件は、早朝の外気温が-2度~-3度、地表の温度が-4度~-5度まで下がることだ。私は、翌朝に気温が下がりそうな時には、前日にシモバシラの周りに水を撒いておく。
まず1日目は、吸い上げられた水分が地上部の枯れた茎の中を毛細管現象によって上昇する。外気温が-3度を下回れば茎が少し凍って裂け目ができる。内側から氷に押された皮は剥離する。気温の上昇と共に氷は解けて水分が蒸発する。
この後、外気温と地表の温度が条件を満たした日の早朝、茎の中の水分が凍る。1日目に出来た割れ目から少しずつ押し出されるように氷が成長する。これがシモバシラにできる霜柱だ。繊細な氷の造形は「氷の花」とも呼ばれる。
外気温が-3度よりも高くても、ボリュームは少ないが霜柱は発生する。だが気温が低ければ良いというものでもない。-5度以下になると、凍るまでの時間が短く、厚くてごつい形になってしまう。
シモバシラ現象は発生回数に限界がある。シモバシラの霜柱は回を重ねるごとに大きくなる傾向にある。条件が良い年があって、1回目は高さ3cmほどだったものが、6回目には幅10cm高さ20cmを越えた。この内、美しい形が見られるのは発生してから3、4回目までである。発生を繰り返す度に茎の割れ目が広がるため、霜柱を形成することができなくなるのだ。私が見てきたものは最高で7回までだった。
余談だが、私はシモバシラの霜柱を舐めてみたことがある。渋味と苦味があった。この渋味と苦味のもとになる成分が、氷点でも凍らない原因なのだろうか。機会があれば調べてみたい。
40年ほど前は、私は毎年のように年末に奥多摩までシモバシラの霜柱を見に行っていた。山小屋の親父さんにはシモバシラの生えている所を教えてもらったり、野生動物の生息地を教えてもらったりと、たくさん世話になった。親父さんに教えてもらった場所へ行き、氷の花をまとったシモバシラに陽が当たったのを見た時には、その美しさに登山の苦労を忘れたものだ。研究で利用することはもちろんだが、シモバシラの霜柱をたくさん見たいと思い、私は薬草園にシモバシラを植えることにしたのだ。
(シモバシラ/シソ科 2021年12月.記)