春一番に咲く山野草として知られている。山地の石灰岩地帯を好んで生える多年草。スプリングエフェメラル(春の妖精)と呼ばれる植物のひとつ。
早春に、まだ残る雪の合間から新芽を出し、愛くるしい白く可憐な花を咲かせる。見た目は弱々しいが、実際は全体が凍っても枯れることなく生き抜く強い生命力を持つ。花の寿命はわずか10日程で、株は初夏には休眠期に入る。石灰岩地帯という、ほとんどの植物が生きられない環境で現在の自生地をかろうじて保っている。寒さに耐えるためガクが花弁化、花の中を守る。珍しい形態と共に花の変化がみられる植物である。その魅力に惹かれ、私はセツブンソウの変化花を求めて、つい自生地を訪れてしまう。そして、知れば知るほど新しい発見が満足感を倍増させる。
自生地巡りをしていると、管理者と話をする機会も増える。情報交換をしたり、現場で苦労していることについて話を聞かせてもらったり、その場所の変種の写真を撮らせてもらったりもした。
私は中学生の頃に数少ないセツブンソウの自生地を巡った。きっかけは小学2年生の頃に遡る。その頃に、私は種苗会の会員になった。そこで発行される植物販売リストでセツブンソウを知り、手に入れた。運良く毎年花を咲かせ、どんどん増えて100株を超えた頃、急に自生地の環境が気になりだした。図書館で各県の植物誌や目録を調べ、秩父に自生地があることを知った。中学1年生で初めて秩父の自生地を訪れた時には、数株ではあったが、会えた。すでに花の時期は過ぎ、種ができていた。だが、葉(株)だけでも、セツブンソウに会えたことで、すごく嬉しくなり、4時間ほどじっと見ていた記憶がある。近くにはアズマイチゲが咲いていた。これを機に「春の妖精」たちに会いに早春の山々に行くようになった。今では保護地区以外では会えなくなってしまったことは心が痛い。
セツブンソウはほとんど変化がないというのが通説だった。だが、ここ15年ほどの間に様々な変化が発見され、山野草展で発表されるようになった。具体的には多花弁、唐子咲き、緑花、赤花などだ。現在は、その変化した各個体を元に更に品種改良が行われている。
セツブンソウは、実生で育てると開花までに数年かかる。私が播いたものでは、早いものは3年で開花。平均で4年かかった。自然に分球することは殆どない。我が家のセツブンソウに、これからどんな変化が起こるのか楽しみだ。
(セツブンソウ/キンポウゲ科 2021年12月.記)