サルメンエビネは海抜1,000m位から上の山地帯から亜高山帯に生える多年草。エビネの仲間で、ガク片と側花弁は緑で唇弁が赤い。それが猿の顔に見えることからこの名が付く。
私は高校3年生の時に初めて月山に登った。登山途中のブナ林で初めてサルメンエビネに出会った。数株あってそのうちの3本に花が咲いていた。あまりの可愛さに感動し、時間を忘れて見入った。2時間ほどだろうか、荷物を置きじっと見る。本当に猿の顔に見えてきた。なるほどと感心し周りを探したが、他にサルメンエビネは見当たらなかった。当時でも株数は少なかったのではないかと思う。
この時の月山登山での印象に残る記憶は、初めて出会ったサルメンエビネとツキノワグマと、木の枝で作った寝床だ。サルメンエビネはもちろんのこと、初めてツキノワグマに会えて嬉しかったことを思い出す。もの言いたげなつぶらな瞳のツキノワグマは体長140cmほどで、首元の三日月模様は顔を上げるとよく見えた。木の枝の寝床作りをするためには、自分の体重を支えられそうな枝がほど良い高さにある木を探す。太めの枝を軸に周りの枝を中心に向かってバキバキと折る。縁は高く中心をへこませるように仕上げればフカフカな木の枝の寝床の完成だ。暑い夏には涼しく過ごせる快適な寝床だ。
残念なことに、当時の写真はフィルム焼けを起こしたため全て処分してしまって見ることはできない。だが、2022年に保護地区内ではあるがサルメンエビネに出会う機会があった。数少なくなってしまった植物たちとの再会に高校生当時の感動が蘇ってきた。
(サルメンエビネ/ラン科 2023年1月.記)