中南米の、主にメキシコに分布する大形の多肉植物。メキシコではリュウゼツランの仲間のアガベをテキーラの原料にする。また、手っ取り早い方法として、葉を車にひかせて糸を採り、布を作ると聞く。なので、試してみようとキャンパスの車道にリュウゼツランの葉を置いておいたら叱られてしまった。
斑入り種が日本に渡来した時に‘リュウゼツラン’と名付けられた。名前に‘ラン’とついているがラン科ではない。明治~昭和初期頃、珍しい植物や貴重な植物に対してランの気品にあやかろうと‘~ラン’と名付けられた植物が結構ある。(例えばキミガヨラン、ハラン、クンシランなど。)後に入って来た、基本種である斑入りではない種は‘アオノリュウゼツラン’と呼んで区別する。今は、両種とも一般的に‘リュウゼツラン’で通っている。
リュウゼツランは株が熟すと花を咲かせる。開花は50年に1回とか、70年に1回という話を聞く。いわば、一生に一度の花である。この花が咲くと、珍しさから話題になり、ニュースで取り上げられることがある。
以前、サボテン好きな知人が、鉢植えのリュウゼツランを育てていた。彼はそれを地植えにしたが、開花までには30年かかったと聞いた。私は薬草園で技術員として働き始めて43年になるが、この間に、キャンパスで地植えされているリュウゼツランの開花を運良く3回も目にした。「あれが花なの?」と言われたことがある。確かに可愛らしさや艶やかさはないが、7mもの高さまで花径が伸びて開花する様子は見事だと思う。リュウゼツランの開花には、いつも感動する。
開花までの年数は株によって、また環境によって違う。何十年もかけて成長するが、開花は1回のみだ。数十年に1回の開花というと、1回開花したその株が次の数十年を葉のまま過ごすと思われがちだが、リュウゼツランは実とムカゴ(球芽)をつけた後に枯れて無くなる。
リュウゼツランは、バナナの房を立たせたような蕾を沢山付け、花を咲かせる。開花すると、数は少ないがハナバエやハナアブ達の姿が見られる。今回の開花時(2022年夏)には、ニホンミツバチがたくさんやって来た。ツバメやヒヨドリの姿も見かけた。これまで開花した株には少ししか実が付かなかったが、今回は珍しく20個ぐらい付いた。これも大量に来てくれたニホンミツバチたちのおかげであろう。この後おそらく100個以上の小さなムカゴ(球芽)が付いて、霜が降りる頃に枯れる。
近年はリュウゼツランを栽培する園芸農家が増え、ホームセンターなどでは、「アガベ」の名前でリュウゼツランの仲間が売られるようになった。1株で数万円の高価なものを見かけたこともある。トゲトゲの分厚い葉の魅力に取りつかれた人たちが増えたのだろうか。
私は小型のアガベを6種栽培している。直径は最大で20cm~50cm、開花時の高さは1.5mくらいになると聞いているが、未だに咲いたことはない。私が生きているうちに咲くかどうかわからない。
(リュウゼツラン/クサスギカズラ科 2022年8月.記)