茨城県のとある場所にマツモがよく花を咲かせる小さなため池がある。そこには故郷に帰れなくなったオオハクチョウがいて、私は彼に会いにその池によくいくのだが、そこで偶然にノタヌキモに出会った。
ある日、池の隅のスイレンの葉の間に藻が浮いているのがふと目についた。ちょっと見たところ、私が知っている藻とは違った様子だった。手に取ってみると、なんとタヌキモの仲間であった。こんなところで絶滅危惧種に出会えるとは!手に取ってみると長さは60cmくらい。驚くほど長かった。花は咲いていなかったが捕虫嚢のつき方からすぐにノタヌキモだと思った。だが、確信が持てなかったので伝手を辿って専門家に見てもらい、確かにノタヌキモだとわかった。秋になるのを待って、私はそのため池にノタヌキモのタネを取りに行った。5粒ばかり採集してきて、キャンパスで育ててみた。うまく成長してくれて、今では長さ1mを超えた。驚いている。
この種の鑑定は私にはちょっと難しい。ノタヌキモの発芽は5月中頃に始まる。この頃の藻はごく小さく、この時点ではまだ捕虫嚢の確認ができない。だが水温が上がると急に伸び始める。発芽した花茎が3cmを超える頃には捕虫嚢がはっきりわかってくる。その後、順調に育てば初花がぽつぽつ咲き出すと一ヶ月近く、次々と咲き続け、実が付くと草(藻)が枯れる。ノタヌキモの特徴としては、草が枯れ種子で残ると私は理解している。なので、私はこの時点でようやくこの植物がノタヌキモであると確信した。
そのため池にいたオオハクチョウは、渡りの時期を過ぎてもまだグレーのままだった。そういう幼鳥を数年に数羽見かけるのだが、その時の彼は、推測だが、何か怖いことがあって渡りを躊躇していたのではいかと思う。彼に気づかなければ、私はノタヌキモに出会うことはなかったかもしれない。彼と知り合いになって暫く経ったある日、彼がスイレンの根茎を咥えて持ってきてくれた。私に「食べろ」と言っているのか、「こんなのあったよ」と見せてくれているのかは定かではないが、私は貰った根茎を記念に育ててみた。白花が主だが、黄花も咲いた。今、グリーンハウス入り口の睡蓮鉢の中できれいに咲いている。
(ノタヌキモ/タヌキモ科 2023年1月,2024年7月記)