

中国北部~中部原産の落葉低木。花期は春。葉が出る前に淡桃色~濃桃色の5弁の花を密に咲かせる。赤く熟した実は酸味が強く生食には向かないが食べることはできる。果実酒として利用されることが多い。
ニワウメを見ると思い出すことがある。私が小学1年生の頃に、私は近所のおじさんに「サクランボだ」と教えてもらいニワウメの実を食べていた。後になってわかったことだが、おじさんは私をからかっていたようだ。だが、初めて食べたニワウメは私にはとても美味しく感じられた。当時はまだ本物のサクランボを見たことがなく、もちろん食べたこともなかった。
そしてサクランボといえば、その頃近所の空き地にはオオシマザクラの樹が生えていた。たくさんの丸い実をつけていたので、私と友達は「その黒い実もサクランボだぞ」というおじさんの言葉を信じきっていた。しかもヒヨドリたちがオオシマザクラの枝に集まって騒ぎ、競って美味しそうに実を食べていたので、その様子を見た私達はさぞかし美味しい実なのだろうと想像していた。私たちは近所の空き地に成る黒く熟したクワの実の美味しさを知っていたのでオオシマザクラの黒い実も同じように美味しいのだろうと期待してオオシマザクラの樹に登って完熟した実を取って食べた。なんてまずい実だ!少し甘いが苦くて渋い。とうてい食べられるものではなかった。私たちはその時になっておじさんにからかわれたとわかった。おじさんは樹の上で渋い顔をする私たちを見て笑い「そうして覚えるんだよ」と言い、去っていった。
そのおじさんがある日「本当のサクランボだ」と言って私たちにニワウメの実を持って来たのだ。騙された過去の苦い経験があるのですぐには食べずに様子を見ていたら、おじさんが食べ始めて「美味しい」と言った。それを見ていた私達も食べてみると甘酸っぱくて美味しかった。オオシマザクラとは違う赤い実。これがサクランボかと、またしてもいとも簡単に騙されたのだが、その時は確かに美味しかった。
当時の懐かしい思い出とともに今ニワウメの実を食べてみると酸っぱくて食べられたものではないが、当時は確かに美味しく感じたのだ。本当のサクランボの味を知った今となっては、あれは良い経験で良い思い出である。
(ニワウメ/バラ科 2023年12月.記)