

ムサシノキスゲは東京都府中市の浅間山(せんげんやま)にのみ自生する多年草。花色は黄色。花色や背丈に微妙に変化がある。形態はニッコウキスゲ(和名:ゼンテイカ)に似るが開花時期がニッコウキスゲよりも早い。ニッコウキスゲの変種とされており、正式には分類されていない植物である。昔は近接する多摩丘陵にも自生していたと聞くが、宅地開発と盗掘により絶滅したと言われている。だが、かろうじて移植し保護されている所もある。
20年ほど前に、某植物園からムサシノキスゲのタネを分けてもらった。当薬草園ではそのタネから栽培し、何度も実生で増やしてきた。採り播きにすると9割近く発芽したが、開花までに早いもので1年、遅いものでは3年と成長にはかなりの差が出た。自家受粉の採り播きから発芽したものであるにもかかわらず、様々な花形が出現した。なかにはノカンゾウのような、オレンジ色に近い濃い花色の個体まであった。ムサシノキスゲの栽培は交雑しないように注意を払っていた。このことから、おそらく親株に濃い花色になる遺伝子があったのではないかと推測している。斑入りも数本出たが、残念ながら3年目にはみな真っ白な幽霊葉になり溶けるように枯れてしまった。また見たいと思っている。
実生は思いがけず植物の“変化”に出会えるところがとても面白く、良い。これまでの私の経験では、採り播きにすると発芽率が良いので、それも魅力のひとつだ。
(ムサシノキスゲ/ワスレグサ科 2022年2月.記)