

中国原産の落葉高木。主に食用として栽培される。観賞用として栽培されるモモもある。春に5弁または多弁の花を咲かせ夏に実を付ける。
果実を食用とするモモは果肉に水分をたっぷり含んだ甘い大きな球形の実を付ける。実モモと呼んでいる。国内では山梨県をはじめ、福島県や長野県、山形県、和歌山県などが主な産地である。夏の果物として人気があるため品種改良が盛んで、絶えず新品種が作られている。現在、各地で栽培されている品種は、古くからある“水蜜”や有名な“白桃”、“あかつき”や“清水白桃”、“白鳳”、“白麗”、“黄金桃”…など多種にわたる。古くからある品種でも美味しく人気のある品種は現在も作り続けられている。15年ほど前からはネクタリンとの交配種も市場に出回っており、これからもどのような新しいモモが出来るのか楽しみである。
食用とする実モモに対し、観賞用として栽培されるモモを“花モモ”と呼ぶ。実モモに咲く花もとても綺麗で十分に楽しめるが、品種改良された花モモは更に見事だ。八重咲きや咲き分けなどがあり、桃の節句に飾られ、文字通りお祝いに花を添える。またモモの園芸品種に“キクモモ”がある。こちらは濃桃色の細長い花弁が特徴的だ。
私が小学3年生の頃、我が家の庭に花モモの樹があったが、近所のおじさんの家には更に大きな花モモの樹があった。おじさんの庭の花モモの実が熟れてくると、そこにはスズメバチやアシナガバチ、カブトムシやクワガタムシ、カナブン、ハナムグリ,アリなどの昆虫が沢山集まり実を美味しそうに食べていた。「これはモモだ」とそのおじさんに教えられ、私は花モモの実を喜んで食べていた。大人たちは食べることはなかったが私や近所の子供たちに「美味しいから食べろ」と言っておじさんがわけてくれていた。虫たちが美味しそうに食べているので、私たちは疑うことなく美味しく頂いていたのだ。後で知ったことだが「花モモは人が食べるものではない」とおじさんや近所の大人たちは笑っていたらしい。だが実際に食べて美味しかったのだから、とても良い思い出ではある。少し渋かったのも確かではあるが…。
当時、モモは高価であったためあまり食べることができなかった。私の中では近所のおじさんに騙されて食べた花モモの味こそがモモとして記憶されている。花モモの実は実モモに比べてだいぶ小さいのだが「摘果しないから実が小さいだけだ」というおじさんの言葉を私は信じていた。花モモの実は少し渋いが甘酸っぱい実であった。今思えば確かに実は小さく、がりがりとした食感であった。だが美味しく食べられたのだから騙されたとしても怒るほどのことではない。私が無知だっただけである。
(モモ/バラ科 2023年12月.記)