

中央アジア原産の落葉高木。マルメロはバラ科マルメロ属の1属1種の植物である。別名セイヨウカリンと呼ばれることがあるが、セイヨウカリンはセイヨウカリン属。また、マルメロの実とよく似た実をつけるカリンはカリン属である。
江戸時代にポルトガル船によって長崎に持ち込まれたと言われている。薬用のほか観賞用として栽培される。花は春。淡桃色の5弁花を咲かせる。後に毛だらけの大きな楕円形の実を付ける。果実は熟れると強い芳香を放ちとても美味しそうなのだが、渋味があり酸味が強い。また果肉はとても固く生食には向かない。果実酒やジャム、寒天菓子などに加工して利用されることが多い。
私がマルメロに出会ったのは小学3年生の頃だったと思う。隣のおばさんがマルメロを“カリン”と呼んでいて、私にもそう教えてくれた。実をスライスして乾燥させたものが喉の痛みにとても効くからと何度も頂いた。確かに良く効いた記憶がある。なので、私はそれをカリンだと思い込んでいた。ある日、カリンの実が成ったからとおばさんが見せてくれた。それは茶色い毛に覆われた、カリンによく似た実だった。私は「毛が生えているからカリンではなくマルメロだよ」と教えてあげた。その時におばさんが「よく知ってるね」と私をすごく褒めてくれたことがとても嬉しかったことを覚えている。この実を見るたびにおばさんを思い出す。余談だが、マルメロもカリン同様に喉の痛みに良く効いた。
私はよくマルメロの実をお茶として楽しんでいる。5mmほどの輪切りにして乾燥させたものを煮出す。マルメロのお茶はそこそこの苦味と酸味と少しの甘味がある。私には少し甘味が足りないので少し冷めたところへ蜂蜜を入れる。出がらしは捨てていたのだが、知人からジャムにすると無駄なく食べられると教えてもらい真似をしてみた。ミキサーにかけて砂糖を加えて煮込んでみたが、結構美味しくできたと思う。食べ物は大事に頂く気持ちが大切だと改めて思った。
近年では珍しさもあり秋の味覚の一つとしてマルメロの実が蜂蜜漬けや果実酒用に八百屋の店先で売られているのを見かけるようになってきた。そういえば以前「ナシと間違えてとんでもないものを買ってしまった!」と怒りながら話していた知人がいた。勘違いして買ったのに…と思ったが、とりあえず黙って聞いておいた。無事に美味しく食べられただろうか。
(マルメロ/バラ科 2023年12月)