

中国原産の落葉低木。オールドローズと呼ばれる原種のバラのひとつ。薬用のほか観賞用として栽培される。木姿は一見ハマナスに似るが花がハマナスより少し小ぶりで、棘はハマナスより少ないものの、木全体に不揃いの棘が多く付く。春に赤桃色の直径7cmほどの八重咲きの花を咲かせる。50年前はとても珍しい植物で、私は東邦大学に勤め始めるまでにマイカイの実物を見たのはほんの数回だった。すべてバラ園で栽培されていたものだ。
就職して間もなく、私は薬木としてのマイカイの栽培に本格的に取り掛かった。当時はだいぶ弱った小さな木だった。なかなか作上がりせず、ようやく勢いがついてきたのが栽培開始から3年目であった。名札に“マイカイ”と書かれていたその植物がやっと花を咲かせてくれたのはそれから2年後の初夏。花の一部が欠けていてイザヨイバラのように見えた。なので「マイカイではなくイザヨイバラではないですか」と先輩のSさんに尋ねたところ「以前からあの看板が付いているからマイカイで合っている」と教えてくれた。マイカイとイザヨイバラは近い種類なので、ひょっとしたら、木に力が無いのでたまたま花が欠けたのかもしれないと思い、私はその株の経過をみることにした。充実してきたとはいえまだ本調子ではない。その後2年ほど花が休み翌年また咲いてくれた。やはり花の一部が欠けている。「マイカイではなくイザヨイバラのようですよ」とマイカイとの違いを説明すると、こんどはSさんも納得してくれた。そんなことが何回かあって「植物のことはお前に任せる」と言われ、現在に至っている。その後、いくつかの植物が看板と違っていることがわかり、Sさんを通して当時の薬草園長のN先生やI先生に伝えてもらった。確認が進み、その後はすぐに看板の書き直しと付け替えが行われた。マイカイやイザヨイバラを見るたびN先生やI先生、今は亡きSさんを懐かしく思い出す。マイカイの栽培は私の転機のひとつだったかもしれない。
結局、当時の薬草園にはマイカイは無く、知人から苗を分けてもらい花壇に植えこんだ。イザヨイバラやマイカイは苗を植えてから3~4年はあまり成長せず燻っている種だ。その後、完全に作上がりすると順調に育ち、よく花を咲かせてくれるようになる。
だが残念なことに当薬草園では作上がりから7年くらい経つと必ずと言っていいほどカミキリムシの被害にあい、枯れてしまう。2年前にも枯れてしまった。挿し木をするのを怠っていたので薬草園からまたマイカイが無くなってしまった。またどこかで苗を探してこようと思う。
これまでに見てきたマイカイで、現在流通しているものは2タイプあるようだと私は思っていた。イザヨイバラのようにも見えるので、すごく気になっていた。思い切ってバラ園でバラ栽培の専門家に尋ねてみたところ、その2タイプは確かにマイカイとして流通していると教えてもらった。ひとつは八重咲き且つ花芯に雄蕊があるタイプ。もうひとつはイザヨイバラにとても似ているものの花が欠けていないタイプだ。マイカイとイザヨイバラとは非常によく似ていて見分けづらいのだ。ただ、葉姿が違うのでそこで区別ができる。
(マイカイ/バラ科 2023年12月)