コマクサは高山の礫地に生える多年草。“高山植物の女王”と呼ばれ、登山者に人気がある。戦後の乱獲で絶滅しかけたと聞いたが、私が登山を始めた1970年代中頃は結構見かけた。だが、それから10年くらい経った頃に「癌の特効薬だ」などという噂が流れて各地でかなりの数が盗掘された。
私がこれまでに行った岳の中で最もコマクサが広範囲に群生し密生して数の多い自生地は、北海道の大雪山系の赤岳付近だ。今はどうなっているかわからない。どこかで書いたかもしれないが、これは他の花でも言えることなのだが、各地に散らばる植物の分布域のなかで南に分布する個体よりも北に分布する個体のほうが花の色が濃く、強いインパクトを受ける。コマクサは北海道産のものがそうだ。そのうえ大株が多く見応えがある。
コマクサが群生する大雪山系は私にとって、いろいろな生き物に出会えた思い出の岳である。ヒグマやナキウサギ達と会えたり、シジュウカラが肩にとまったり、シマリスがリュックの中に入り込んできたこともあった。物凄く楽しかった思い出だ。
私は大雪山には3回しか行くことができなかったのだが、貴重なコマクサを食べる貴重なウスバキチョウに会えた。初めて見た成虫の形態はとてもチョウには見えず、ガと間違えたほどだった。コマクサの周りの石をよく見るとウスバキチョウの卵がついていたり幼虫が隠れていたりすることがある。ウスバキチョウの成虫は実は飛ぶのが下手だし、風が吹くと飛べずに石にしがみついてじっとしている。風が強くなると転がる。すごく不器用なやつだ。
乱獲によって消滅寸前だった草津白根山の自生地にコマクサの群生を復活させた人がいる。“こまくさおじさん”と呼ばれる知人のYさんだ。
Yさんはコマクサの自生地を数十年かけて復元すると決意し、自分の大切な畑に砂利を入れコマクサを栽培した。成長した苗を白根山のかつてコマクサが生えていた場所に植えて見事に復活させたのだ。だが2018年の白根山噴火の際に火山ガスで一部が枯れてしまったと聞く。噴火で立ち入り禁止になってから私はまだ見に行くことができていないので、現在はどうなっているのかわからない。心配である。
Yさんの活動は林野庁のWebサイトに記事が掲載されているので、“草津町 コマクサ 復元”と検索をしてみてほしい。
(コマクサ/ケシ科 2022年2月.記)