ヒガンバナ科の多年草。葉は、冬の終わり頃に出て夏には枯れる。その後、お盆の頃に、まっすぐに伸ばした花茎の先にユリのような形をしたオレンジ色の花を咲かせる。かつては、土手や落葉樹林の林床などで、ふつうに見られた。だが、宅地開発や乱獲により激減している植物のひとつ。今では、キツネノカミソリを保護する地区以外では群生を見ることができなくなってしまった。
キツネノカミソリは、私がとても好きな花の筆頭だ。何とも言えない色合いは群落によってその濃淡が違う。花の時期には、葉が無いのに地面からニョキっと出てきてパッと咲く。その花の形も好きだ。薄暗い林床で出会った時にドキッとするところや、気にしていないと見逃してしまうところにも魅力を感じる。
千葉県内で私が見てきた群生地は6か所あり、それはどれも田んぼの駆け上がり*にある大きなものだった。40年ほど前、そこでは花の時期になると斜面がオレンジ色になるほど、たくさん咲いていた。だが、それらは除草剤の散布により全て無くなってしまった。田んぼの持ち主に理由を聞いたところ、イネの害虫が集まる雑草を取り除くためとのこと。重労働の草刈りに変わる方法が除草剤散布ということだった。
その、無くなってしまった群生の中には、多花弁のものや、シベが白いものなどがあった。それらのタネから開花までの日数がどのくらいなのかを試すために、自家受粉でタネを採り、持ち帰って播いてみた。その結果、開花までは早いもので6年。ほとんどが8年かかった。当時は、どの株だったのかが分かるように目印をつけておき、タネを採るという地道な事をしていた。
その地道な作業の結果、シベが白い珍しいキツネノカミソリができた。この時のタネから白シベは確立できたが、一方で多花弁は、まだ数えるほどしか出てこない。
その後、行きつけの山野草店からキツネノカミソリの多花弁が入荷したとの連絡を受けて、その時に購入したものが順調に育っている。もう30年になるが、多花弁(八重咲き)の中で花弁数の変化があった。益々興味が湧き、好きになる。その花を見るにつけ、除草剤で無くなった群生地も、行政の力を借りるなどして保護をするなど、どうにか手を打てなかったのかと今でも悔やんでいる。
* 田んぼの駆け上がり:田んぼと隣接する林などの間の緩やかな斜面のことなのだが、方言だろうか。
(キツネノカミソリ/ヒガンバナ科 2022年2月.記)