南アルプス北岳に生える多年草。北岳固有のトリカブト。背が低く花が大きいのが特徴。
キタダケトリカブトは15cmほどの低い草丈に、3~4cmの花がつく。稀に5cmほどの大きな花もあった。とてもアンバランスな姿だ。そのせいか、初めて出会った時のショックはとても大きかった。まるで誰かが花の時期に短く切って地面に刺したような感じがした。強風にさらされる尾根筋には、このような草丈の低いものが多く自生する。自然界の厳しさが現れている。
野呂川を挟んで北岳の向かいにある鳳凰三山の登山口あたりになるとホソバトリカブトがあり、草丈は1mくらいになる。濃紫色が主で、過去には白花や桃色花にも会えていたのだが、ほとんどが盗掘され、無くなってしまった。
20才の頃は、毎年登山シーズン中に10回は北岳に登っていた。特に花の時期には、天気が良ければ毎週通ったものだ。6月~7月上旬に咲くキタダケソウと、8月下旬に咲くキタダケトリカブトが特に好きで、その魅力に取りつかれていた。両種とも同じような場所に育ち、私が知る限りでは5か所に自生していた。そのなかでも個体数が一番多い所は北岳バットレスから間ノ岳の間だった。植物によって開花時期が少しずつ違っているので、そのことも毎週のように足を運んでしまう理由のひとつだった。約40年前の話だ。
その頃は今のようにデジタルカメラなどは無く、フィルムカメラで撮っていた。フジクロームを主にコダクローム、エクタクロームなどを愛用していた。なかでもコダクロームはスライド用のフィルムで、私が使った中で原色に最も近いものだった。36枚撮りを毎回30本分ほど撮り切っていた。30年経ち、殆どがフィルム焼けを起こしたので捨ててしまった。後で知ったことだが、今の技術で、元通りとは行かないまでも、デジタルデータに復元できるのだとか。もったいないことをしてしまった。
ギャラリーページのキタダケトリカブトの写真は、全て北岳バットレス直下の山岳道脇で撮ったものだ。北岳と間ノ岳稜線で撮った写真が一番多かったのだが、今は残っていない。今日葬式のMさんと行った時が一番きれいに咲いていたと思う。その時のフィルム2本を、フィルム交換の時に北岳の岩の上に忘れてきてしまった。
(キタダケトリカブト/キンポウゲ科 2022.10.記)