キタダケソウは、日本で富士山に次ぐ高い山である南アルプス最高峰の北岳(高さ3,192m)の一部にだけ生える植物。絶滅危惧種で、「氷河期の生き残り」と言われる貴重な植物だ。
北岳は私が好きな岳だ。二十歳の頃、年に20回ほど通い、色々な植物を見てきた。山小屋‘肩の小屋’をベースに植物を探しまくり、4か所でキタダケソウが自生しているのを確認。一番大きな自生地は北岳バットレスの中腹で、当時40株ほどあった。その15年くらい後、肩の小屋の親父さんから「キタダケソウが盗掘された」と聞いて見に行ったところ、たった6株しか見つからなかった。とてもがっかりしたことを昨日のように思い出す。
キタダケソウが盗掘されたその年、千葉の山野草展でキタダケソウを見た。その出展者に入手方法を聞いたところ、山梨県の山野草屋が実生で増やしたキタダケソウだと教えてくれた。その後、各地の山野草展でも見かけた。出展者は「キタダケソウは栽培が難しく枯れやすい」と教えてくれた。
キタダケソウの近縁種に北海道産のヒダカソウ(キンポウゲ科)がある。たまに、山野草展でヒダカソウがキタダケソウとして紹介されていることがある。ヒダカソウはキタダケソウよりも暑さに強く、作りやすいようだ。
遠くから見た時に、私はハクサンイチゲ(キンポウゲ科)をキタダケソウに見間違えることがある。見たい気持ちも手伝ってか、ハクサンイチゲの花の開きかけの姿がキタダケソウに見えてしまうことがあるのだ。
(キタダケソウ/キンポウゲ科 2022年2月.記)