山野に生える落葉小高木。雌雄異株。コブシなどと共に春一番に咲く、春を告げる植物。下向きの淡黄色の花が枝に穂状に着く。その様子から、生け花では「キフジ」と呼ばれることがある。‘地味な花’などといわれるが、キブシは個人的に好きな樹木のひとつだ。スズランのような花が穂状につく珍しい独特のフォルムと、私の好きなビロードツリアブがよくやって来るのが理由だ。
私は時間ができればいつも筑波山に写真を撮りに行く。2月中旬~下旬の、まだほとんどの昆虫が眠っている中で、日が射して暖かくなるとキブシの周りでビロードツリアブや成虫越冬のルリタテハなどに会うことができる。そんなときには春間近と実感する。また、初夏にはキブシの新しい葉にウスモンオトシブミが産卵を始めるので、出会うとつい時間を忘れ、見入ってしまう。
キブシは夏に見事な実をつけ、秋には熟す。葉が真っ赤に紅葉したころに実を採った。1個を割ってみると、中にはホコリと見間違うような小さなタネがたくさん入っていた。200粒までは数えたのだが、諦めた。その10倍はあったと思うので2000粒くらいだろう。採った実を1個播いたところ400本ほどの芽が出た。これは実の中に入っていたタネのほんの一部で、翌年もまた同じくらいの芽が出た。10年以上経ってから芽が出るものもある。
キブシは挿し木や実生で増やすことができる。実を播いてから開花までには3年かかったが、他の樹に比べれば早い方である。キブシは実生で栽培すると、稀に赤花や斑入りが出る。なので、開花まで3年くらいかかる一方で斑入りの出現を待つ楽しみもある。
(キブシ/キブシ科 2022年1月.記)