ジエビネは主に低山帯に生える多年草。私がよく行く山では西側から北斜面にかけてかつては多く見かけた。宅地開発やエビネブームが起こった時期に盗掘されたことで激減した植物。
私は小学生の頃、花の時期になるとジエビネを見るために自転車で一日かけて、成田近辺までよく行った。その頃のジエビネはふつうに生えている野の花といった扱いであった。ジエビネは地味なのだが花色の変化がとても多く、そういう意味では派手さがある。そこが園芸植物には無いジエビネの魅力であり、そのことが当時の私が山野草の中で一番好きな植物がジエビネだった理由なのかもしれない。
ジエビネは一株ごとに微妙に花色や花形が違い、そこが何とも言えず魅力的だ。私が小学生の頃は “兜咲き”や“三蝶咲き”といった奇形花がふつうにあったように思う。ジエビネの奇形花が生えている山は、小学生の私が自転車で行ける範囲に何か所かあった。そこでは、ジエビネの奇形花は必ず小株で生えていた。大株になったものや、たくさん生えている場所には殆ど見られなかった。中学生の時にはクラブ活動が忙しかったので山にはあまり行けず、高校生になってから記憶を辿って山道を進むと、そこに生えていたはずのジエビネは殆どが無くなっていた。それは1970年代前半。丁度エビネブームの始まりの頃であった。
(ジエビネ/ラン科 2023年1月.記)