イワタバコは崖の壁にへばりつくように生える。沢の崖や湿った切通しの半日陰を好む多年草。私が知る自生地のひとつは鎌倉にある。初夏に、お寺の山道脇の崖に沢山の花を咲かせる様子が見られる。
イワタバコは成長すると30cm位にもなる大きな葉を垂らして、初夏に紫色をした2cmほどの小さな星形の花を咲かせる。花色の変化はほとんど無いのだが、ごく稀に桃色や白色の花が咲いているのを見かけることがある。私はこれまでに、白花を2株と、薄紫色の花をつけた株を3株だけ見たことがある。
山野草店では“初夏の山野草”としていろいろなイワタバコが売られている。紫色の花を咲かせる普通種をはじめとした、濃色や桃色、白色の花。また、八重咲きのものや、斑入り葉のものなどだ。
イワタバコは実生や葉挿しで増やすことができる。水を切らさず半日陰で栽培すると良くできる。
自生状態では1枚の大きな葉に花茎が1本出る。そこに花を数花咲かせるというのが基本的な姿だ。だがある時、知人からいただいた野生種を自宅で肥培をしたところ、翌年に1株から出た葉は複数枚で元の大きさの3分の2ほどに小さくなった。その後、花径は多いもので4本出たことがあり、花数が増えて帯化することもあった。
花の時期になると、野生種の自生品のはがし物を知人からいただく事がある。イワタバコも知人の持ち山に自生しているようである。「株自体も、葉もあまりに大きいので、別種ではないのかと思う。見てほしい。」という依頼だった。その株は他の野生種に比べてかなり大きかったが、私が見たところ、別種ではなくイワタバコであった。
その株は葉が大きく、最大で1枚の長さが30cm位あった。細い花径が伸びて花が6花。根は殆ど無い個体で、この株をどう生かせるか考えた。わずかにある根元をミズゴケで包み植え、上半分に切り葉挿しをした。
翌年、どうにか着いてくれたようで、元から大きな3枚の葉を出す株になり、花茎も3本が出て立派に咲いてくれた。3株とも、大きな葉1枚の元から小さな葉が2枚ずつ出てくれた。ひとまとまりになった株の葉は全部で9枚。
だが、葉は20cm位か。前年ほどは大きくならなかった。肥培をしているため葉肉は厚くなり、前年には細かった花茎は太くなり花数も増えた。
他の植物でも言えることだが、私の経験上、自生している植物を栽培すると翌年には必ず小さく、しっかりとした姿になる。おそらくだが、自生する植物はその周りに障害物が多いと、日光を浴びようと葉をより大きくしたり、伸びたりするのだと思う。
イワタバコの葉は山菜として食べることができる。私はラーメンの具として食べてみた。クセが無く、食べやすかった。他にも、おひたしや和え物、天ぷらなどで美味しく食べられると聞いた。
(イワタバコ/イワタバコ科 2022年12月.記)