

日本では屋久島から沖縄にかけて分布する常緑低木。絶滅危惧種。イソザンショウは植物好きな人たちの間では園芸名のテンノウメのほうが知られている。天を向いて咲くウメのような花をつけることから別名をテンノウバイとも呼ばれる。
20年ほど前、知人のAさんがどこからか根っこ1本の状態の挿し木苗をもらって「育ててほしい」と、私の所へ持って来た。一見すると形がサンショウに似ていた。葉は照りがあり、小さく硬い。葉質から海岸線に生える植物とわかる。おそらくイソザンショウの園芸種のテンノウメだろうと私は思った。図鑑で見て知ってはいたが、この植物の自生地には一度も訪れたことがない。Aさんが、自分が持っていると枯らしてしまうかもしれないから私に「預ける」と言った。私はすぐにその“テンノウメ?”を鉢に植えて固定し、管理をはじめた。丸1年、枯れるでもなく成長するでもなく全く変化なし…。
半分諦めていた翌年、急に根元から太い新芽が出てきて弧を描くように成長を始めた。“テンノウメ?”は枯れずに生きていた!私はすぐに地植えにしようと思い鉢から抜いた。立派に根を張り、鉢の中に根が周っていた。これで枯れることは無いなと安心して地植えにし、経過観察をした。預かった時は葉と葉の間隔が1cmほどとかなり狭かったのだが、約3cmに。3倍くらいに伸びただろうか。葉も当初は白く細かな毛が生えていて丸まっていたが、毛が無くなり葉自体がひと回り大きくなったように見えた。そして照りが強くなった。挿し木苗を預かってから4年、地植えにしてからは2年目には小枝が出てきた。4月中頃には初めての花を見ることができた。
だが、この“テンノウメ?”は図鑑や写真などで見るテンノウメよりも花数が多く、どこか雰囲気が違う。本来ならきれいに対生するはずの葉の付き方もこの株はいい加減だ。徒長した枝では互生しているのだが、ところどころコクサギ型葉序が現れる。これはよくわからない植物である。植物に詳しい人達に尋ねてみたが残念ながら明確な答えは得られなかった。とりあえず当薬草園ではこの個体を“テンノウメ”として栽培するつもりでいる。これも個体差なのかもしれないが、自生種を目にしたことが無いので自分の中ではもやもやしている。いつか在来種を手に入れて観察をしたい。自生地を訪れる機会があったらよく観察したいと思う。
(イソザンショウ/バラ科 2023年12月.記)