山野に生える落葉多年草。春の林床に、珍しい花形の‘いかり型’をした薄紫の花を咲かせる。薬用の他観賞用として栽培される。
イカリソウは花の変化が多く、産地により色々な花形や花色がある。花形の変化で分かりやすいのは距の長さと反り具合だ。色は白~濃紫、赤、絞り、黄色などがある。草丈は10cmから50cm前後までと様々。落葉性だが常緑のものもあるなど、非常に変化に富む植物だ。近年の山野草ブームで山野草展やホームセンターなどで外来種やその交配種なども見かけるようになった。
現在、その土地の固有種で絶滅危惧種になっているものがいくつかある。柏市には、かつて子供の頃に愛犬の散歩中に見つけた距の無い種のバイカイカリソウがあった。10年ほど楽しみに見ていた。よく行った至仏山ではキバナイカリソウの高山型である、高さ20cmほどのクモイイカリソウを15年続けて見ることができた。どちらも、ある時無くなっていて、生えていた場所を見ると掘られたような穴があいていた。激減の原因は殆どが盗掘のようである。
私にイカリソウを教えてくれた近所の物知り爺ちゃんに、柏市で出会ったその草のことを話すととても興味を持ってくれた。見たいとお願されて茎1本を持ち帰って見てもらうと、とても珍しいイカリソウであることがわかり「よく見つけたね」と褒められた。得意になった私は一株を掘り取り爺ちゃんにあげたのだった。バイカイカリソウは、出会った当時、小学生向けの植物図鑑には載っておらず、偶然手に入れた牧野植物図鑑でバイカイカリソウのことが初めてわかった。その後、柏市の自生地は盗掘に会って無くなってしまったが、バイカイカリソウは物知り爺ちゃんの庭で大株に成長し見事に花を咲かせていた。物知り爺ちゃんにあげたいと掘り取ったのは50年くらい前の子供の頃のことで、反省はしているが後悔はしていない。だが今は言える。盗掘は絶対にやめてほしい。
クモイイカリソウは尾瀬至仏山の山頂付近から尾瀬湿原に下る蛇紋岩地帯に生える固有種である。同じ蛇紋岩が露岩している谷川岳にもあるらしいのだが、残念なことに、これまで谷川岳のクモイイカリソウには会えていない。どうも私は谷川岳とは相性が悪いらしく、谷川岳登山を計画すると豪雨になったり台風が来たりで、これまでに行けたのはわずかに2度だけだ。
話が逸れたが、私のクモイイカリソウとの出会いは高校1年生のときだ。山と渓谷社のポケット図鑑に載っていた山岳写真家の白旗史朗さんが撮られたクモイイカリソウに惹かれ尾瀬に行くようになった。とても綺麗な写真だったのだ。牧野植物図鑑にはクモイイカリソウが載っていなかった。今と違って情報を探すのが大変な時代だった。私は各県の植物史の目録をとことん読み込んだ。地図を見て地形と植物図鑑、目録などを見比べ、見当をつけて探しに行ったものだ。
イカリソウは一般的に株分けで増やす。できるだけ大きく分けるのがコツで、私の経験上、株分けをした方が増える。イカリソウは丈夫で、一度根付くとよく増える。根茎を健やかに伸ばすためにも、できれば3~4年で掘り上げ、株分けを兼ねて植え替えると良い。水が好きなので出来るだけ水を切らさないように栽培すると花付が良い。品種改良をする場合には実生で増やす。私の経験では、花が咲くまでに6年かかった。
(イカリソウ/メギ科 2022.1月.記)