中国原産の多年草。帰化植物で、有毒植物の代表種のひとつ。昔から土手や空き地、墓地などでよく見かけた。そのせいか、30年ほど前までは庭植えにされることはほとんどなかった。現在はホームセンターでも売られるようになり、普通に庭植えで楽しまれている。ヒガンバナには‘毒の花’や‘縁起の悪い花’としての別名・方言が100以上あるらしい。私も‘ドクバナ’や‘シバナ’、‘ハカバナ’など、30ほど聞いたことがある。
ヒガンバナは染色体が3倍体で種子が出来ない。地下茎が分球して分布を広げる。古株になると上に小球ができ、転げ落ちて2~3年で花を咲かせる。近年、染色体が2倍体のヒガンバナが見つかりマニアの間で交配に使われ、品種改良が進んでいろいろな花が発表されている。また、ここ数年で急にヒガンバナの斑入りが各地で見つかり、山野草展で発表されている。
私がヒガンバナの八重咲きと出会ったのは、忘れもしない高校1年生の夏の終わりのことだ。当時はカメラのフィルムは高価だったので、植物観察をする時にはカメラを持たず、ひたすら地図に植物名を書き込んでいた。‘変わり’物は赤字で特徴を書き込み、珍しい植物は太字で書き込んでいた。当時の植物の分布は今とは全く違っていて、今では絶滅したものや絶滅危惧種になってしまったものなどが沢山、普通に生えていた。その中で、成田の田んぼの駆け上がりの所にヒガンバナの八重咲きを見つけ、一人舞い上がっていた。もう一度そのヒガンバナの八重咲きを見たくて翌年にもまたその場所に行き探したが、見つからなかった。一年だけの八重咲きだったのか、枯れたのか、盗られてしまったのかわからないが、無かったことは確かだった。「去年、持ち帰っていればよかった。」とその時は思った。そんなことがあってから5~6年経った頃、ヒガンバナの八重咲きが有ると植物マニアから聞き、五千円で1球を譲ってもらった。夢にまで見た八重咲きヒガンバナ。園芸名を「紅孔雀」といい、九州か四国の‘八重咲変わり’と教えてもらった。現在は順調に花が増えている。その後「紅孔雀」は市場に出回ってきた。今ではヒガンバナの八重咲き品種は5、6種あることがわかっている。
(ヒガンバナ/ヒガンバナ科 2021年12月.記)