低山帯から亜高山帯(深山)に生える小形のラン。老木や、苔むした岩などに着生する。フウランはもともと自生数が少ないのだが、今では自生株がほとんど無い。老木の伐採や盗掘で絶滅危惧種になってしまった。
現在、近場でフウランを見られる場所は香取神宮の正門脇だ。かなりの大株に成長している。人の手によって付けられたものが増えたらしい。とはいえ、自生状態が解る貴重な株である。その株を数十年も観察を続けている人がいる。花期には境内に良い香りがして、花が咲いたことを知ることができるそうだ。また、これまでに3分の1ほどが盗掘されたとも聞いた。神社の植物でさえも盗掘されるとは、残念なことだ。
これまでに私が見たフウランの最北地は岩手県。他に、福島県や茨城県でも見たことがある。一番多く見たのは千葉県だ。千葉県で樹木の伐採をする人と知り合い、伐採した老木に着いたフウランを何度か見せてもらった。フウランが生えているという連絡をもらって見に行くこともあった。自生地に案内してもらった時には、着いているのがかろうじてわかるくらいの高所にたくさん着いていた。
フウランは‘風貴蘭’と呼ばれ江戸時代の文献に記述が残っている。現在は古典園芸植物として、斑入りや花替わり、葉替わりがマニアの間で人気だ。私もその一人なので、しっかり作り込んで栽培をしている。草姿と花の形、色がなんとも言えず魅力的だ。そして鼻が良ければ良い香りもわかるはずだ。栽培をしてみれば‘風貴蘭’の魅力に取りつかれる事は間違いない。
あるマニアが35年ほど前に実生で作出した赤花の品種がある。色花の代表花‘朱天王’だ。彼は趣味で無菌培養をはじめたそうだ。瓶出し3年物の苗を分けてもらい、それを3~4年作り込んで赤花を見ることができた。赤花の場合、実生の小さな苗でも‘付け’が赤ければ間違いなく赤花が咲く。私も試しに交配をし、株元に種を播いた。その後、数は少ないが数株の苗が得られた。いわゆる‘鉢播き実生’だ。無菌培養より3年ほど長い時間がかかるが、その分楽しみがある。
私は色花の中でも緑花が特に好きで、‘翡翠’という品種をセルフ実生で開花まで持って行った。現在我が家にある数株は、みな微妙に違いがある。フウランはとても奥が深い。
(フウラン/ラン科 2022年3月.記)