薬草園にあった旧温室の中に大きなヒキガエルのオスが棲みついていた。夏場は温室の外に出て過ごし、秋になると戻ってくる。レンガ色をしたきれいな個体だ。レンガ色なので“レッド”と呼ぶことにした。
私がレッドをじっと観察をしていたら、私に興味を持ったのか、彼は近づいてきて私を見上げた。温室の植物に水をかけると、鉢のフチや底から水が落ちるのだが、その振動で驚いたミミズが出てくることがある。するとレッドの動作が急に俊敏になり、勢いよくミミズを捕らえて食べる。レッドは私が植物に水をかけるとミミズが出てくることを学習しているようだった。彼が私に見せてくれる動作は「水をまいてくれ」と訴えていたような気がする。
温室の扉を開け「レッド!」と声をかけると「クククククク」と返事をしてくれるようになった。レッドが「クククククク」と鳴くので、私も「くくくくくく。レッド!」と返事をする。レッドがのっそりと出てきて前脚を立てて体を傾け私を見上げる。「今日も元気だね」と言えば「クククククク」と答える。レッドに出会って今年で3年目。それが日常になりつつあったのだが、私が骨折をしてしばらく温室に行かなかった間に姿が見えなくなってしまった。心配である。
旧八千代薬草園にもヒキガエルがいた。ある時、夕立が降り始めたので、私たち薬草園のスタッフは倉庫の軒下で雨宿りをすることにしたのだが、その日は大きなメスのヒキガエルも一緒になった。彼女は倉庫脇に置いてあったテーブルの下で眼を閉じてじっとしていた。夕立の大きな雨粒が地面に当たる振動に驚いたミミズたちが土から這い出て彼女の前に現れた。それに気づいた彼女は素早く反応し、次から次へとミミズを食べた。夕立が去るころには13匹も食べて満足したのか彼女はねぐらへ戻って行った。八千代薬草園ではそんな光景を何度も見た。一度はオスのヒキガエル2匹が加わり、3匹でミミズを食べていた。私たちは何度もヒキガエルたちに会っているので、彼らは私たちから危害を与えられることはないと安心しているみたいだ。彼らは安心をすると普段の行動を見せてくれる。
(ヒキガエル/ヒキガエル科 2022年3月.記)