私がヒバカリに出会ったのは筑波山。40年ほど前のことだ。きっかけはアズマヒキガエルの産卵を見たいと思い、産卵しそうな場所を探しまわっていた時のことだ。私はアズマヒキガエルの産卵が始まる啓蟄よりも前から筑波山に通って6か所を見つけ、毎週のように見に行っていた。
アズマヒキガエルの産卵の時期は年により15日ぐらいのズレがあるようだ。産卵場所は多様で、水たまりや道の脇のちょろちょろと清水が流れている所、湧き水を貯めるために重機で掘られた溜池、土砂崩れで堰き止められてできた池などだ。そのような環境で、多い場所では、ぱっと見て60匹くらいのアズマヒキガエルが居た。卵はまるでうどんを太くしたような姿で細長い形。水温にもよるのだが筑波山では1週間ほどでオタマジャクシがかえり、その後1週間ぐらい経つと活発に泳ぎだす。水面が真っ黒になるほどチビ達がうごめくのだ。
ある日、そのオタマジャクシの群れの中に真っ白な個体が1匹、灰色の個体が2匹いるのをみつけた。この日の私の目的はビロードツリアブというアブを撮ることだった。カメラのバッテリーはすでに使い切ってしまっていて、色の違うオタマジャクシたちの写真は撮れなかった。私にはよくあることなのだが、何かの生き物に初めて出会う時にこのようなことがおこる。初めて見たアズマヒキガエルのオタマジャクシの白化個体。「ヒキガエルにも白化個体がいるんだ。ふーん。」と納得してしまっていた。捕獲して連れて帰ろうにも水槽の代わりになるものは何も無し。またいつか会えるだろうと思い、その姿を目に焼き付けた。翌週、白化個体に出会った場所へ行ってみたが、どこを探しても見つからなかった。あれから今日まで、一度もアズマヒキガエルの白化個体には会えていない。あれは本当に珍しい個体だったのだろうと思うが、いつかまた会えると信じて、産卵の時期になると私は毎年筑波山へ出かけている。そんなことをもう20年以上も続けている。
筑波山へ通い続けていたら、10年前頃からだろうか、オタマジャクシに足が生える頃にオタマジャクシのいる水場でヒバカリたちに会えるようになった。彼らはオタマジャクシを食べに来ているのだ。最初の年に会えたヒバカリは2匹だったが、年を追うごとに数が増えてその4年後には7匹に会えた。その中に毎年のように会う個体がいた。最初は私の姿を見るとすぐにどこかへ消えてしまったが、何回か会ううちに私が敵ではないと判断したのか、目が合っても逃げないばかりか、声をかけると寄って来てくれるようになった。ヒバカリはとても小さく可愛らしいヘビだ。気がかりなことは、昨年、ヒバカリの姿を全く見なかったことだ。今年は会えるだろうか。
以前、ヒバカリがオタマジャクシの群れに近づき捕食しているところを見た。気の毒だが「これが自然界なのだ」と自分に言い聞かせ、記録としてその様子を撮った。そういえば一度、ヒバカリがヒキガエルに食べられているところを見た。彼らの世界は体の大小でヘビのほうが餌になったりもするようだ。
彼らに会うたびに、白いオタマジャクシ、そして白いアズマヒキガエルにいつか会ってみたいと強く思う。
(ヒバカリ/ナミヘエビ科,アズマヒキガエル/ヒキガエル科 2022年3月.記)