イタリア原産の常緑高木。オレンジを品種改良して作られた果肉の赤いオレンジ。
薬草園管理棟の奥にあるブラッドオレンジの木は樹齢およそ60年ほどだ。名誉教授の久内清孝先生が種を播き、大事に育ててきたものと聞いた。私が東邦大学に勤め始めた40年前には、すでに実生20年ほどだった。久内先生の思いを引き継いでこれまで大切に育ててきた。
一度は樹高7mほどに育ったのだが、2009年10月の台風18号による暴風雨で枝が裂けてしまったため、その枝を切り戻した。翌2010年に初めて花が咲き、実が成り始めた。‘桃栗三年柿八年・・・’と言うが、それよりも長い年月がかかった。成長がすごくゆっくりな品種である。つい先日も剪定を行い、今は樹高4mほどに維持している。
ここ4、5年で実が沢山付くようになって、わかったことがある。果肉は、実が未熟な時は全く赤くならず、熟すと赤くなるのだ。果皮が赤く色づいた実の果肉は赤く色づく傾向にある。果皮が黄色のままのものは果肉が赤くならない。私は未熟な状態の実を口にしてみたことがある。果皮がまだ緑の時だ。酸っぱくて渋く、とても食べられなかった。だが、熟した実はいずれも味が濃く、強い酸味があり、本当に美味しいブラッドオレンジに育った。
ブラッドオレンジの食べごろは2月中旬頃のようだ。というのは、その頃にヒヨドリやカラスが突いて食べ始めるからだ。実を突いて穴をあけるとメジロをはじめウグイスやムクドリがおこぼれにあずかる。普段は山地や低山地に棲むサンショウクイやセンダイムシクイの姿が見られたこともある。この辺りでは珍鳥だ。更に、落ちた実をタヌキやハクビシンが食べているのも見た。薬木園の中には、タヌキのものと思われる貯め糞場がある。観察してみると、ブラッドオレンジのタネが沢山出てきた。久内先生は動植物をこよなく愛されていたので、この光景を見てもらいたかったと思う。
(ブラッドオレンジ/ミカン科 2022年2月.記)