ウスバシロチョウは北方系のチョウ。私が彼らによく会うのは春の東北や北海道の、低山帯から亜高山帯あたりだ。キャンパスのある千葉県では見たことがない。
ウスバシロチョウの体は黒く、ちょうど首のあたりに黄色いマフラーをかけたような模様があり洒落ている。翅にははっきりとした個体差があるように思う。ほぼ完全に翅が透けた個体から、白色で透けていないものまで様々だ。大きさも5cmほどの小柄な個体から10cm近くある大柄な個体までいる。その違いに、別種ではないかと思うことがある。ウスバシロチョウの姿は一見するとガのようなのだが、なんとも弱々しい印象だ。優雅でゆったりと飛ぶチョウだ。
ウスバシロチョウは特徴的な透けた翅を持つ。そして彼らの翅は脆い。ちょっとしたことで鱗粉が剥げ、翅がすぐにボロボロになる。天敵に追われて何かにぶつかると、翅に穴が開いたり鱗粉が取れてしまったりする。羽化から10日も過ぎると、翅がかなりボロボロになった個体や、何かに当たったのか鱗粉が殆ど無くなってしまった個体などに会うことがある。
私は以前に2度、オス同士がメスの取り合いで空中バトルをしているのを見かけた。バトルの所為で、ほとんど鱗粉を無くした個体も見た。他のチョウに比べ、ウスバシロチョウは翅が脆いように私には見えた。
今年、私は縁あって春から初夏にかけて南会津に10回ほど行った。多い時には週2回通った。この時にウスバシロチョウに会うことができた。そこではウスバシロチョウの成虫は羽化から3週間ほどで姿が見えなくなってきたように感じた。私が南会津でウスバシロチョウを観察するのは、いつも夜明けから3~4時間ほどだけだったが、その間、色々な出来事に遭遇した。ウスバシロチョウはムラサキケマンやキケマン、ミヤマキケマンなどを食草にしている。そのため、それらに含まれるアルカロイド系の毒を体内に蓄積させていると聞く。だが、私はムクドリが数羽でウスバシロチョウの狩りをしているところに何度か遭遇した。他に、ヤマサナエやカマキリに捕まっているのも見た。ムクドリやヤマサナエたちにとってアルカロイドは毒ではないということなのだろうか?ムクドリに追われていたウスバシロチョウが、その後、捕まって食べられたのかどうか確認できなかったが、あの狩りの状況から想像するに、おそらく食べられたのではないかと思っている。ウスバシロチョウたちには体内に毒がある。だからと言って敵がいないわけではなさそうである。
(ウスバシロチョウ/アゲハチョウ科 2022年12月、2024年6月.記)