

薬草園では毎年12月になると、産卵を終え一生を終える直前のカマキリのメスたちに出会うことがある。彼女たちは一様に羽が傷んでいるがお腹はまだ大きい。まだ卵を産むのかなと思い、私は出会ったその個体をあたたかい温室の中に入れ観察をすることにした。冬で食料になる獲物がいないので市販の生タイプのミルワームをあげてみた。するとむさぼるように何匹も食べた。昆虫にも成虫越冬する種がいるので、この個体は元気だから寒さに合わなければ越冬できるかもしれないと思い、私はミルワームを毎日与えた。よく食べる。私が温室に入って、いつもいるあたりを探すとオオカマキリと目が合う。複眼なのだが瞳があるように見える。気をつけて観察してみると、必ず私を見ている。瞳のように見える部分がこちらを向いているのだ。1月に入ると急に動きが悪くなり緑色だった目が全体的に茶色になってきた。やはりカマキリの寿命は秋までなのかと思わされた。徐々に動きが鈍くなりミルワームも食べず、目は真っ黒になってしまった。それでも声をかけるとカマを構え触覚を動かし、まだ生きていることを教えてくれた。これまで私が見てきたオオカマキリのメスで一番長生きをした個体は2月中旬まで頑張っていた。オオカマキリはかなりの生命力の強さを感じさせられる昆虫だ。
子供の頃、私は秋になるとそこらじゅうでよくカマキリを捕まえて遊んだ。ある時、何かの拍子に捕まえたメスのオオカマキリのお尻が水たまりに触れた。その瞬間、お尻から勢いよく黒くて長い何かが飛び出してきた。びっくりして見ると、ソレが水たまりの中でうごめいている。あまりにも驚いたのでそのオオカマキリを放して急いでその場から逃げた。家に帰って近所の物知りおじさんに話したところ、それはハリガネムシという名前でカマキリに寄生する虫だと教えられた。そして「その虫は人の血管に入り人を殺す」と言っていたのを聞き、それからしばらく夢に出てきて怖かったのを覚えている。どちらも衝撃的な出来事だった。あとになって、おじさんに「ハリガネムシが寄生していたオオカマキリを触ってしまったけど自分は大丈夫か」と尋ねに行くとすごく笑われ、おじさんの冗談だったとわかった。ほっとした。それと同時に私はそのおじさんを信用しないことにした。
(オオカマキリ/カマキリ科 2022年2月.記)