
キアゲハはアゲハチョウ科の中でナミアゲハ(通称:アゲハチョウ)に次いでふつうによく見られるチョウ。翅色はオレンジ色に近い黄色が強く目立つ。翅の質はナミアゲハに比べて硬いようだと私は感じている。
私が子どもの頃、キアゲハが我が家の庭に来ることは殆ど無かった。だが、数種類の花が一斉に咲く時期に来てくれたことがあり、その時はとても嬉しかったのを覚えている。小学3年生の頃、私はキアゲハの食草を調べた。図鑑にはセリ科とあったので、近所でセリ科の植物を探すとヤブジラミやノラニンジンなどがたくさん生えている場所を見つけた。そこでキアゲハの幼虫を探したが、その時は全く見つけることができなかった。いつかは見つけてやろうと方々を探したが、そう簡単には見つけることができなかった。
運の良いことに、近所にチョウにとても詳しい“チョウおたく”のお兄さんがいた。私はお兄さんに詳しく教えてもらい、また探し始めた。まもなくハナウドに大きな4齢の幼虫がいるのをみつけ、嬉しくなって葉と一緒に家に持ち帰った。お兄さんに感謝だ。
私は幼虫をバケツに入れて昼となく夜となく眺めていた。すると幼虫は3日もしないうちに蛹になった。夜明け頃、蛹が割れてから、ものの数分で羽化した。おそらく3分もかかっていなかっただろう。羽化したてのキアゲハはすぐに枝につかまった。翅が伸びていく姿を私はずっと見ていた。なんと綺麗な翅。お腹はアンバランスなほどかなり大きく見えた。もう、この日の学校はどうでもよくなり、呆れる母親に学校へ欠席の電話をかけてもらい観察を続けた。羽化したてのキアゲハは3~4時間ほどその場でじっとしていただろうか。9時頃に急に動き始めた。軽く羽ばたきをした時、目が合ったように感じた。いよいよ飛ぶのかと思った瞬間、キアゲハは私の顔におしっこらしきものをかけ、開いていた窓から飛んで行った。かなりの量であった。お腹が大きく見えた理由はこれか、と思った。無事、立派なキアゲハになってよかった。
翌日、学校でこのことを友だちに話したが、またしても「そんなことはない」とすぐに否定された。教えてあげたのにと、さすがに落ち込んだ。そんな私の姿を見ていた父親が次の日曜日に「野菜を取りに行こう」と声をかけてきた。行き先は親父の知り合いの農家の畑だった。畑ではゴボウやニンジン、ネギなどたくさんの作物が作られていた。それを見た時すぐにピンときた。キアゲハの幼虫がいるのではないか?―――探してみると居るわ、居るわで、いつの間にか私はテンションマックス。父親は私の気持ちをわかっていて連れてきてくれたのだと思った。その中の数匹を持ち帰り、私はまた観察をはじめた。
(キアゲハ/アゲハチョウ科 2024年9月.記)