

アゲハチョウはアゲハの仲間のなかでも私にとって一番馴染みのあるチョウである。別名アゲハ、ナミアゲハともいう。
私が子供の頃、我が家の庭にはカラタチやサンショウ、ユズといったミカン科の植物が数本あった。アゲハチョウの幼虫はサンショウの木にいた。庭で放し飼いになっていたチャボたちはよく庭の虫を食べていたのだが、アゲハチョウの幼虫はめったに食べることがなかった。そのためか、幼虫がついたサンショウはいつも丸坊主状態になるまで食べられてしまっていた。それでも枯れることのないサンショウがすごいと私は子供心に思っていた。よく観察をしてみると、幼虫たちは食草があれば枯れる寸前までモリモリ食べるが、完全に食い尽くすことはあまりなかった。食い尽くしてはいけないと本能でわかっているのだろうか?と不思議に思った。
ユズには別の幼虫がよくついていた。クロアゲハの幼虫だ。私はサンショウについていたアゲハチョウの幼虫を何度もユズの木に連れて行ったのだが、彼らはいつの間にかサンショウに戻っていた。孵化後に食べ慣れた食草が彼らの食べ物になっているようだと私は思った。
アゲハチョウの3齢幼虫の体の緑色は何とも言えない綺麗な色だと思う。全体につるりとして毛が生えておらず、横には大きな目玉模様がある。つつくと臭い触角を出して、まるで威張るような動作をするのがとても好きで、その姿を見たいがために私はよく幼虫にちょっかいを出していた。触覚のニオイは、最初は嫌な刺激臭に感じられた。だが、次第に慣れて嗅ぎたくなっていった。幼虫にとってはいい迷惑だったことだろう。
「せっかく我が家に来たのだから」と、羽化してきれいなアゲハチョウの姿になって飛んでいくまでの間、私はアゲハにたくさん遊んでもらった。
私はアゲハの幼虫が4齢から蛹化する様子や、蛹から羽化する様子を見るのが好きだった。ある日、庭で4齢幼虫をみつけて部屋に連れて帰った。幼虫を虫かごに入れて布団に転がって観察をしているうちに私はそのまま眠ってしまった。翌朝、目を覚ますと虫かごは空っぽだった。部屋中を探したが幼虫はどこにもいない。「もし潰してしまったら大変だ!」と、とにかく探し回ったが結局見つからなかった。諦めて何日か経ち、忘れかけた頃にアゲハチョウが部屋の中を飛び始めた。それを見て、行方不明になっていた幼虫のことを思い出した。窓を開けるとアゲハチョウはひらひらと外へ飛んで行った。
しばらくして部屋の箪笥の隙間にアゲハチョウの蛹の抜け殻を見つけた。行方不明だった4齢幼虫はそこで蛹化していたようだ。無事にチョウになった幼虫。潰してしまったのでなくて本当によかった。
余談だが、子供の頃からなぜかチョウ達が寄って来てくれる。理由はわからないが、まるで私に挨拶をしに来てくれているようだといつも感じていた。不思議だ。
(アゲハチョウ/アゲハチョウ科 2024年7月.記)