ある日、グリーンハウスに一羽のシジュウカラが飛び込んできた。1回のみならず3回も訪ねてきてくれたシジュウカラくん。動画は最初の日のもので、偶然にも充電のために手元にあったビデオカメラで撮ることができたものだ。
その日の朝、窓際の席で私がパソコンに向かっていると窓の外からシジュウカラが「ツーピー、ツピーツピー、ジェジェジェジェジェ。」と鳴く声が聞こえた。姿を探すと彼はヒマラヤスギの小枝に止まって私を見ていた。私が窓を開けて「おはよう、シジュウ。つーぴー、つぴーつぴー、じぇじぇじぇじぇじぇ。」と返事をしたら彼はまるで部屋に入りたいとでも言うように前傾姿勢になった。私が「入りたいの?じゅくじゅくじゅく。」と声をかけて網戸を開けると、彼は躊躇することなく部屋に飛び込んできた。その姿を見て楽しくなった私が「何がしたいの?シジュウ。」と尋ねると、彼は部屋の中をひと回りした。そして隣の椅子の背もたれの上にちょこんととまった。私の顔を見ながら「チーチージェジェジェ」と声をかけてきたので、「ちーちーじぇじぇじぇ」と返事をすると、私を見上げ首をかしげた。そのやり取りを何回か繰り返していた時に、「そうだ、動画に撮ろう!」と思い、そっとビデオカメラを手に取ったのだが、彼は驚いて飛んでしまった。そして少し離れた壁際の流し台まで飛んで行って蛇口の上にとまった。
私はビデオカメラのスイッチを入れて、「おい、シジュウ。ちちちちち、じぇじぇじぇじぇ。」と呼びかけた。外では仲間が「チーチクチーチクチーチク、ジェジェジェ」と鳴いて、まるで「出ておいで」と彼を呼んでいるようだった。シジュウカラくんは蒸留装置の上に乗り、閉めてあるカーテン越しに仲間と会話をしていた。
もっとここにいてほしい気持ちはあったが、私は撮影を続けながらシジュウカラくんに外へ出るように促した。「シジュウ、仲間が呼びに来ているからまた来な。いいから出な。じゅくじゅくじゅく。」彼は私を見て首をかしげた。「じゅくじゅくじゅく、じゅくじゅくじゅく。出なさい。仲間が待っているよ。呼んでるよ。行きな。」もう一度促した。「チーチー」と鳴くので、私が「ちーちー。じぇじぇじぇ。」と返事をすると、仲間に合流して飛んで行った。何だったのだろう?まあ、いいか。
翌朝、私がグリーンハウスに入ろうとした時のことだ。入口の引き戸を開けると、モミジバフウの樹から、シジュウカラくんが凄い勢いで降りてきて、また室内に入って来た。「今日は玄関からか。ちーちー、じぇじぇじぇじぇ。」と声を掛けると、「チーチー、ジェジェジェジェ。」と鳴いて部屋をひと回りした。そして昨日の窓に仲間がやって来て、彼はまたその窓から出て行った。更に3日目にも、また入り口から来てくれた。とても貴重な体験だった。シジュウカラくんは私に何を知らせたかったのか。いつかまた来てくれるだろうか。
私が屋外で作業をしていると視線を感じることがある。ある時は、シジュウカラたちが私を取り囲むように近くの木の枝にとまっていた。そして彼らは時折私を見ながら、仲間同士で何かを話しているように感じた。またある時は、自分がいる場所を私に知らせてくれた。
私は彼らの言葉がわからないので、彼らが発している声を自分が聞こえたとおりに声に出してみることにしている。シジュウカラの鳴き声をよく聞いていると、最後に「ジェジェジェ」とか「ジュクジュクジュク」という音を付けることが多いように思う。彼らに会った時に、私が「じぇじぇじぇじぇ」と言うと、よく寄って来てくれることは確かだ。シジュウカラは好奇心旺盛な鳥のようで、私には彼らがとても観察力の高い鳥のように思える。
私の呼びかけに聞き入るジジュウカラくん。おそらく彼は「この人は何を言っているのだろう?」とでも思っているのではないかと私は思う。
(シジュウカラ/シジュウカラ科 2022年3月.記)