

ライチョウは、日本国内では高山帯に生息する。在来種で、国の特別天然記念物であり絶滅危惧種である。
北岳で初めてライチョウに遭遇したのは、50年ほど前の中学3年生の時だ。いるとは聞いていたが、その可愛らしい姿に惹かれ、フレンドリーな性質に魅せられた。ライチョウの魅力にはまり、北岳、爺が岳、白馬岳、乗鞍岳などに、よく会いに行った。
北岳に4組のつがいが居た。その内の一家族、ライ君(と、呼んでいた)親子に一番多く会った。登山道脇の岩の上やハイマツの元で寝転がっているとヒナがよく遊びに来てくれた。親たちとは面識があるので安心しているのか、なんとも好奇心が強いヒナたち。耳元で「ピィピィピィピィ」と複数のヒナの声がして目が覚めるのだ。じっとしていると更に近づいてきて私を見ている。私の頭のあたりで砂浴びが始まる。わざと私に砂をかけているのか、貴重な体験だ。突然、母さんライチョウが「ググググググ」とカエルの様な声で鋭く鳴き始めた。ヒナたちに知らせる警戒音のようだ。その後すぐに猛禽類が飛んできた。チョウゲンボウだろうか。チビ達はピィピィと鳴きながら一斉に急いで母さんライチョウの元に駆け寄り、ハイマツ林の中に消えた。寄って来てくれたり、天敵から逃げる場面に出くわしたり、そんな事を何度か私に経験させてくれた。
つがいの時に出会ってからライ君たちとの関係は5年ほど続いたが、6年目以降は、ぱたりと会えなくなった。
夏に高山植物の写真を撮っていると、よくライチョウが現れた。私に向かい「グゥグゥ・グゥグゥ」と声を発してきた。そのたびに真似て返事をすることを繰り返していたら、4・5回会ううちに私を見つけると寄って来てくれるようになった。夏はヒナがいる子育ての時期だ。この時期は、周囲にガス(霧)がかかり視野がすごく悪くなることが多かった。このガスは天敵の猛禽類からヒナを隠してくれる。
北岳の山小屋「肩の小屋」の親父さんの話では、ヒナがキツネに食べられてしまうことがあるということだった。「北岳山荘」のトイレの横では確かに何度かキツネに会っている。おそらく、ヒナは簡単に捕まってしまうだろうと思った。
私が出会った全てのヒナが、秋まで無事に育つことは、めったになかった。足を運んだいずれの年も、平均して半数ほどだったと思う。そして現在、昔は来なかったサルが頻繁に出没し、ライチョウのヒナを食べてしまうらしい。北岳のライチョウが絶滅寸前と聞き心配している。北岳のライチョウはどうなってしまうのだろうか。40年前に最も多くのライチョウが生息していたのは爺が岳だったように記憶しているが、そこも今ではどうなっているのか分からない。
(ライチョウ/キジ科 2022年3月.記)